「民衆の歴史を記録する仕事には、終わりがありません。」 ─松岡環/著『南京 引き裂かれた記憶 元兵士と被害者の証言』


目次

はじめにかえて ─ 被害者と加害者が出会う時

第1章  揚子江河岸一帯での南京大虐殺 ─ 元兵士六名、被害者六名

第2章  城門やその付近での南京大虐殺 ─ 元兵士六名、被害者七名

第3章  国際安全区内やその他での性暴力 ─ 元兵士七名、被害者八名

第4章  南京大虐殺下の性暴力 ─ 被害者と加害兵士の証言から見る

第5章  企業の弾圧が私を南京大虐殺に向かわせた─松岡環の生い立ちから

■対中国侵略戦争年表


【はじめにかえて ─被害者と加害者が出会う時】(抜粋)

今から四年前、被害と加害の証言を本にして英語で出版しましょうと私に提案したのは、カナダのトロントにある「第二次世界大戦の歴史事実を維護する会」(ALPHA教育)の代表者のフローラさんとウォンさんでした。ALPHA教育は歴史事実を明らかにしようと活動している団体です。カナダの先生たちが中心になって、新しい歴史事実に目をむけて、「戦争とは何か、平和とは何かを考えさせる教育」を推進しようとする教育団体として、一九九〇年代から活動していました。私は、二〇一〇年から今年(二〇一六年)の四月まで、何度か彼らに招待されてカナダやアメリカ、香港に飛び、カンファレンスに参加したり、大学やハイスクールで南京大虐殺の調査研究の講演をしてきました。また歴史教育のために南京を訪れる彼らに何度も講演を依頼されました。

三年半もの歳月、どんな詳細な単語や文章についてもメールでやり取りをして、解説や訂正を重ねて、やっと英文版の南京大虐殺証言集『南京 引き裂かれた記憶』が二〇一六年四月に完成したのです。

私は本の証言内容をより増やし、近年調査した新しい証言者をたくさん入れようと思い、英文版原稿の証言文を編集し直しました。毎日、たった一人で証言を書き起こし、整理し、時間が経つのも忘れて集中して録音を聞き、書き起こしました。英文版出版から半年後に、ボリュームアップした中国語版と日本語版の原稿が整いました。

新刊の『南京 引き裂かれた記憶』では、加害者と被害者が、同じ時、同じ場所で、同じような南京大虐殺の体験を語っています。私が彼らから聞き取った場所は、南京と日本国内なのですが、両者の話は、一九三七年の十二月のあの時あの同じ場所なのです。お互いが全く知らないながらも同じ体験をしていたのです。加害と被害の両者の証言を突き合わすことによって、南京大虐殺の歴史事実が鮮やかに浮かび上がってきます。それを補足するのは、兵士が故郷に出した「揚子江で敵を殲滅」と書き記した手紙や「城内掃蕩で我小隊 一日で二百五十人を殺す」などと書き記した兵士の日記でした。

今、加害の側も被害の側もどちらも九十歳以上の高齢となりました。自ら明確に話すことすらできない人が増えていますし、ご家族から幸存者の訃報を耳にすることも日常的になりました。私たちが掘り起こしてきた証言や映像記録は次の世代のために残すことが本当に大事だと思えるようになりました。

私は元兵士二百五十名、被害者三百人以上を取材し記録に残しました。南京大虐殺当時若かった、生存する被害者の調査は今も続けていて、情報を蓄積しています。

民衆の歴史を記録する仕事には、終わりがありません。

二〇一六年十二月


南京引き裂かれた記憶 元兵士と被害者の証言
松岡環/著 A5判223頁 定価=本体2,200円+税

購入サイト(外部リンク)

投稿者: 社会評論社 サイト

社会評論社 SHAKAIHYORONSHA CO.,LTD.