連載◎[港区・赤坂]赤坂のヒナ探し 第3回 紀之国坂の怪談

シェットランド・シープドッグ(シェルティ)はお店の看板犬だった「ヒナ」。 写真提供・金松堂書店 西家嗣雄さん

第3回 紀之国坂の怪談

赤坂にまつわる怪談を見つけました。

まゆ毛を剃ったスッピン顔すらヒャッとする私めですが、目も鼻も口もないノッペラボーさんがこちらを振り返る!‥‥なんて映像を子供の頃に見た記憶があります。

そういう時、画面のこちら側が声をかけます。「どうしました、うずくまって。調子でも悪いンですか?」

たいていこちらは善意でたずねるわけです。すると向こうの人、これは後ろ姿からして若い女性で、時代劇のような髪形と着物だったりする。

シクシク、シクシクッ‥‥なんていう効果音というか声を出してね‥‥。

気がつけば辺りは暗い。こちらは妙に怖くなってきた。かえって声をかける。

「ねぇ、泣いてちゃ判りませんヨ、娘さん。どうしました? なにかできることなら、お手伝いしますよ‥‥」

そう言いながらそっと彼女の方に手をかける、そしたら。

クルッと彼女が振り返ったらノッペラボーの面構え、構えてないな、顔なのかな。そして殺し文句の「なんか用かい?」。

これが少年心に「なんか妖怪」に聞こえてくるマカ不思議。

ドッヒャー!とばかり驚いて、ほうほうのていで逃げ出します。ハヒハヒ駆け出したその先に、灯りがあって、屋台らしい。人の気配があるからノレンをのけて「た、た、助けて下さい」と屋台の方にヘルプミー。

そしたら台の人までノッペラボー。そこでもう一度ドッヒャー!となるんですナ。

こんな展開の話、怪談が赤坂に関わっています。

明治の半ばの日本にやってきた教師ラフカディオ・ハーン、またの名を小泉八雲が、妻のセツの協力でなった『kwaidan(怪談)』(1904年刊)に収められた「むじな」はとっても短い話。ノッペラボーたちが出てくる怪談であり、その舞台が赤坂の紀之国坂。

ノッペラボーの正体は話の題になっているムジナ(狢)が化けた物で、タヌキとともに人を化かした言い伝えが日本の民俗として各地に残されています。

そのムジナが赤坂にも出て人を化かした。鄙めいた東京の昔の雰囲気を伝えるエピソードだと思います。

なぜノッペラボーになってまで人を化かしたのかその真相はどこにあったのでしょうか‥‥。

今の世の中でも混雑する電車や街なかで、いっさい顔色変えず、それこそ無口で人を押しのけたり、困っている人をそのまま助けようともせずいるときの自分の表情といったら‥‥。ノッペラボーより恐ろしい。

紀之国坂交差点。前方が赤坂、後方が四谷。左手に曲がれば紀尾井坂。ニューオータニ、上智大学。

怪談の舞台になった紀之国坂は、上智大学グランドや弁慶堀に沿って首都高も間近になる坂道。坂の地下にちょうど地下鉄丸ノ内線が四谷駅と赤坂見附とを結んでいるようです。坂道は今でも緑の豊かな辺りで人通りは少ないようです。警備のおまわりさんは見受けられます。ムジナやタヌキのような動物が出てきてもおかしくなさそうな茂みがありますが、昔とは違って、車の流れが常にありますから彼らも命がけだ。

ムジナやタヌキが人を化かす言い伝えには、結末に犬が出てきて、化けた正体を見破って殺してしまうという、ムジナたちにしてみたら怪談が待っているそうです。

そういえば、赤坂の一ツ木通りのお店に、気の優しい看板犬がいたのを思い出します。

ムジナが客に化けてお店にやって来たら、やはり見破るもんでしょうか‥‥!?

そもそもムジナは本を買いはしないでしょう。彼らの化けるノッペラボーには顔がない、買おうがない、買わない。ってなわけですナ。

(つづく)

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文責・板垣誠一郎

参考文献
・ラフカディオ・ハーン作、平井呈一訳『怪談 不思議なことの物語と研究』岩波文庫、岩波書店、1989年(初版1940年、改版1965年)
・柳田國男監修『民俗学辞典』東京堂、1952年(初版1951年)


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2019年9月配信開始!
赤坂のヒナ探し

第1回 ラジオの向こう
第2回 金松堂の看板犬ヒナ
第3回 紀之国坂の怪談
第4回 赤坂の三文役者(1)殿山泰司さんと金松堂 
第5回 赤坂の三文役者(2)殿山泰司さんと一ツ木通り

 

コラム:東京の昔と本屋さん


東京のむかしを探しに街の本屋さんを訪ねる。新刊書店、古書店のわくをこえてお店の来歴を手がかりに文学や芸能を通して東京の魅力を見つける。

投稿者: 社会評論社 特設サイト 目録準備室

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