〈エドウィン・ダンについて〉瀧田寧・寄稿 ─「外国人」の足跡から近代日本をひもとく手引き(1)

直江津

新潟県上越市の直江津地区。その近代史と文学にスポットをあてた『日本海沿いの町 直江津往還』の執筆者のお一人、瀧田寧氏からエッセイをお寄せいただきました。先日9月10日には北海道エドウィン・ダン記念館で講演をされています(北海道新聞札幌版2016年9月27日付に記事「酪農の父ダン 石油開発にも力 真駒内の「牧牛場」開設140年 記念館で功績学ぶ講演」掲載)。

エドウィン・ダン。「お雇い外国人」として日本にやってきたアメリカの人。現在、北海道酪農の父と知られるものとは別の顔を瀧田さんはご紹介下さいます。


《寄稿》

エドウィン・ダン(1848-1931)について

瀧田 寧

(Takita Yasushi 日本大学准教授)

 

明治期のお雇い外国人で北海道開拓に携わったアメリカ人、と言えば、クラーク博士を思い浮かべる人が多いだろう。けれども、実はクラークは、札幌に1年弱しか滞在していない(1876年7月~1877年4月)。

これに対しエドウィン・ダンは、クラークよりも早い1873年に北海道開拓のためのお雇い外国人として来日したアメリカ人で、その後約10年にわたり北海道の農業、畜産事業のために尽力した人物である。

ダンは来日当初、開拓使が東京に設置した「第三官園」という畜産試験場に勤務するが、1875年には北海道に長期出張し、函館近くの七飯(ななえ)官園で技術指導を行う。

1876年、ダンは札幌官園に転勤となるが、その場所がちょうど同年に開校を控えた札幌農学校となることに決まったため、ダンは新しい官園を真駒内(まこまない)に建設することにした。

ちなみに、その札幌農学校の初代教頭に就任するのがクラークである。もともと博士号を取得し大学教授としてのキャリアを積んでいたクラークと異なり、ダンは自身が牧畜業を営んでいた経験をもとに、北海道でも現場の技術指導者としての道を歩んだ。ダンは現在でも、“北海道酪農の父”と呼ばれている。

1882年に開拓使が廃止されると、ダンは東京に移り、83年にはいったんアメリカに帰国するが、84年、今度は外交官として再来日し、93年には駐日米国公使(在東京の米国公館長)の地位にまで昇進する。在任中は日清戦争の早期終結に尽力した。

1897年の公使退任後も日本の発展のために貢献したいと考えたダンは当時の新潟県下の石油ブームに着眼、日本に本格的な石油精製工場を造ろうと動き出し、1900年、アメリカのスタンダード石油の子会社であるインターナショナル石油を日本に設立し、その工場を、港近くに広い土地があった直江津(現在の新潟県上越市)に造り、ダン自身はその直江津支店支配人を務めた。

だが1907年、スタンダード石油の方針により直江津の工場が廃止になると、アメリカから持ち込んだ施設の一切を日本石油に譲渡し、ダンは直江津を去る。ダンは直江津では現在でも、石油事業をもたらした人物として伝わっている。

酪農の父、外交官、そして石油事業の人・・・この多彩な顔を持つダンの生涯のうち、特に彼の直江津時代に焦点を当てたのが、『日本海沿いの町 直江津往還―文学と近代からみた頸城野(くびきの)』の第三章「ダン一家と直江津」である。

なお、JR北海道の車内誌『The JR Hokkaido』334号(2015年12月1日発行)の特集記事「エドウィン・ダンの「日本愛」:牧畜、外交、石油 ―多彩に生きた近代の使者」では、本書を紹介していただいているほか、本書刊行後のダン一家に関する情報も紹介されている。

(参考文献)
真駒内用水路の父 エドウィン・ダン
(農林水産省、http://www.maff.go.jp/j/nousin/sekkei/museum/m_izin/hokkaido/


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日本海沿いの町直江津往還
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日本海沿いの町直江津往還 文学と近代からみた頸城野監修=NPO頸城野郷土資料室
編集=直江津プロジェクト

四六判並製・256頁・定価=本体2,200円+税

日本海沿いの町・直江津は歴史上、多くの人や物が行き交う、いわば「往還」する地である。本書は、「文学と近代」を切り口として、全国に知られている文学作品、全国各地の郷土史、歴史学的知見と照らし合わせて見えてくる直江津の歴史、風土、文化に光を当てる。日本海を挟んで東アジア諸国との交流がいっそう見込まれ、直江津を軸に環日本海のハイブリッド文化圏が展望される今日、本書の論考はその原点を見直す試みと言えよう。

主要目次

監修者のことば ・・・ 石塚正英

第1章
直江津の近代 ─交通の要所の復活 ・・・ 古賀治幸

コラム
林芙美子と継続だんご ・・・ 花柳紀寿郎

第2章
物流の拠点としての直江津 ─今町湊の時代から ・・・ 長谷川和子

余勢夜話
保倉・直江津 ─思い出すままに ・・・ 長谷川和子

第3章
ダン一家と直江津 ─「赤煉瓦の異人館」案内板からの出発 ・・・ 瀧田寧

余勢夜話
直江津ゆかりの音楽人 ・・・ 瀧田寧

第4章
「赤いろうそくと人魚」の背景を訪ねて ─〈南〉への憧憬と、回帰する〈北〉の記憶 ・・・ 米田祐介

コラム
ドブネと水族博物館 ・・・ 古賀治幸

第5章
直江津と佐渡の「山椒大夫」  ・・・ 杉山精一

コラム
二〇〇二年の直江津祇園祭 ・・・ 籠島幹

活動紹介
頸城野郷土資料室における「直江津文学碑めぐり」 ・・・ 桑野なみ


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くびき野文化事典頸城野郷土資料室/編集 村山和夫/監修
B5判上製・400頁・定価=本体8,400円+税

資料篇収録項目
1.本事典に関する参照文献一覧
2.上越市の指定文化財(市・県・国)一覧
3.妙高市の指定文化財一覧
4.糸魚川市の指定文化財一覧
5.頸城地方(糸魚川市・柏崎市・妙高市の一部を含む)の遺跡一覧
6.上越市城館砦跡等一覧
7.頸城地方の石碑一覧
8.くびき野ストーン分布一覧
9.上越郷土研究会編『頸城文化』(上越市立高田図書館内)総目次
10.上越市の文化施設・憩いの施設・スポーツ施設一覧
11.上越市野外施設・公園一覧
12.上越市温泉入浴施設一覧


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投稿者: 社会評論社 サイト

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