| 詳報 | 五十嵐一郎/著 ドイツ帝国時代を読む─権威主義的国民国家の岩盤とその揺らぎ

A5判並製・248頁 定価=本体2400円+税
ISBN978-4-7845-1364-2


本書の着想はジョン・ゴードン編『ドイツ史と社会』を読み進むなかで得られた。ちょうど講義シラバスを作成するように,各種の資料集から文章を抜き出し,それをテーマ別に並べ変えて題名と解説を加えてみた。それが本書の骨格をなしている。それにしても,図書館や書店の書架にヒトラー関係本がひしめく一方で,その前史をなすドイツ帝国時代の本がなんと僅少なことか。児童文学作家ケストナーはドイツ帝国時代を振り返って,「怒鳴られる前にこけた教師たち」が「こわれた時代」を道ならししたと言っている。同時代者たちの体験談にもっと耳を貸すべきではないか,という思いも本書執筆の刺激材となった。(著者、本書あとがき)


目 次


はじめに

第1章 ドイツ帝国時代の見取り図

1. 遣米欧使節団のドイツ訪問
2. 実感したドイツ的特性
3. ドイツの地勢学的特徴
4. ドイツ帝国時代の見方
5. 社会的断層線
6. ドイツ経済の高度成長 25
7. 三極の文化・社会環境 27

第2章 強権的支配体制と忠誠心

1. 周辺部の複雑な民族構成
2. 偉容を誇る帝都の建設と「保守的再編」策
3. 社会民主党員に対する監視体制
A.社会民主党地方大会の監視報告書(1889年)
4. 軍国主義プロイセンの将校と兵士
B.メッツ騎兵駐屯地における新兵しごき(1911年)
5. 「試補主義」根性の横行
6. プロイセン農村の選挙光景
C.東エルベ農民の投票行動(1937年)
7. ヴィルヘルム二世の「個人統治」
8. 醜聞の暴露と内政の紛糾
9. 皇帝発言の内容とその政治的危険性
10.「個人統治」を補完する「無力な議会」
11.少数野党の自由主義勢力
D.「個人統治」を糾弾するオイゲン・リヒター(1897年)
12.権威の虚構性
13.前線と銃後の落差
14.遅ればせの忠誠心
E.敗戦後の忠誠心(1935年)

第3章 生活苦にあえぐ大都市住民

1. 帝都の貧民街
F.「兵舎アパート」に住むベルリーン民衆(1871年)
2. 帝国創建直後のバリケード戦
3. 劣悪な女性労働を糾弾するリリー・ブラウン
G.家事奉公人の就労事情(1901年)
4. 苛酷な家事労働負担
H.ある幼児死亡事件とその判決(1879年)
5. 世紀転換期における労働環境
6. 社会民主党のネットワークと底辺労働者
I.家内縫製業で一家を支えた女工の人生(1931年)

第4章 「臣民」の培養装置

1. 忠良な臣民の振る舞い方
2. 予備役将校資格の威信
3. 軍服の象徴的効用
J.「第一身分」の誇示(1927年)
4. 戦時における実用本位の軍服
5. 勲章と称号の社会的機能
6. 新貴族叙任の裏話
K.山積状態の貴族叙任申請書(1912年)
7. 学校の兵営的共同体化
L.「組織された大衆」の少年少女たち(1913年)
8. ギムナジウムにおける臣民教育
M.ギムナジウムの偏った教育内容(1912年)
9. 現実離れした学習内容
10.脱学校教育の胎動

第5章 排除の壁を乗り越えた時

1. 近代社会における女性差別
2. 女性解放運動の始まり
3. 自らの道を切り開いたアニタ・アウグスプルク
N.女性だけで開設した写真スタジオ(1941年)
4. 上流社会の壁
5. 結束する社会民主党員たち
O.社会主義者鎮圧法が廃棄された瞬間(1924年)
6. 社会主義者鎮圧法時の労働運動と社会民主党
7. 女性解放運動の戦略的手掛かり
8. 女性教育の開拓者ヘレーネ・ランゲの奮闘
P.女生徒初のアビトゥーア受験(1922年)
9. 女性教育運動への拒否感
10.女性が学ぶベルリーン大学の光景
Q.最初の女子大生たち(1899年)

第6章 民族主義の偏見とそれへの警鐘

1. 身体の劣等感と文明の落差
2. デフォルメされた日本人のしぐさ
3. 「黄禍」の扇動と「義和団」鎮圧の実情
4. 「陽のあたる場所」を求めて極東へ
R.「陽のあたる場所」演説(1897年)と「フン族討伐」演説(1900年)
5. 大艦隊建造の戦略とその利害
6. 「社会帝国主義」の手法
7. 艦隊政策を弁護する歴史家たち
8. 大ドイツ主義の扇動
S.ドイツの国境線はどこまでか(1912年)
9. 大衆的扇動団体の跳粱
10.社会ダーウィニズムの流行
11.「優生学」から「人種衛生学」へ
T.優生学者の妄言(1926年)
12.ドイツ嫌いの理由の考察
U.ドイツ人の粗野な言動(1917年)

第7章 教養知識人に特有な思考様式

1. 「知識人」の登場
2. ドレフュス事件の反響
3. 20 世紀初頭における「知識人」論
V.「知識人」の存在規定について(1902,1903,1916年)
4. 教養市民層という社会基盤
5. 大学総長閣下の呼び方
6. 多様な分野の「知識人」
7. 「文筆家」と「ジャーナリスト」の識別
W.「文筆家連中」とはどのような人々か(1917年)
8. 第一次世界大戦のイデオロギー合戦
9. トルストーイ・ブーム
10.『モルゲン』誌上のゾンバルト
11.ゾンバルトのアメリカ体験
12.「文化人」ゾンバルトの矜持
X.ゾンバルトの現代政治拒否論(1907年)
13.自由主義陣営の支持基盤とその裂け目
14.自由主義支持者の組織政党嫌い
15.自治能力を欠く国民の問題
16.教養人層の「政治的未成熟」
Y.「ゲーテのドイツ人」を自負する官吏たち(1927年)
17.教養世界という「非政治的」安住地

第8章 国民の政治的「成熟」への問いかけ

1. 知識人層の戦争目的論争
2. ゾンバルトの反イギリス扇動
3. 大衆扇動団体に加入した人々
4. 教養ブルジョア層のイギリス観
5. 文化集会における亀裂
6. 若者の焦燥感
Z.「自由ドイツ青年団」集会への呼びかけ(1913年)
7. ドイツ政治の隘路
8. 「国民国家を共に担う主体」とは何か

補章: W. J. モムゼンのドイツ帝国時代史研究についてのスケッチ

1. W.J. モムゼンの経歴
2. 学界デビューと歴史家としての立脚点
3. 歴史家論争における発言
4. 「社会史」の分析方法
5. 「権威主義」の社会構造とその自滅への道筋
6. おわりに

ドイツ帝国史略年表
あとがき
人名索引


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五十嵐一郎(いがらし いちろう)
1946年福島県会津若松市に生まれる。東京教育大学大学院文学研究科西洋史専攻修士課程を終了。埼玉県立高等学校の社会科教諭として五校に勤務。定年退職後,神奈川工科大学非常勤講師として日本近代史,歴史学,生涯学習概論などを担当(2007~14年)。
[著書]『近代の光芒─国家の原風景』(日本評論社,2000年)
[訳書]カール・レヴィット「ウェーバーとシュミット」(『政治神学』未来社,1971年),ヴォルフガング・J・モムゼン『マックス・ヴェーバーとドイツ政治1890~1920』Ⅰ,Ⅱ(未来社,1993~94年,共訳)
[論文]「国民自由主義的権力国家像─ドイツ自由主義の思潮と初期ヴェーバーの国民国家論」(田中浩編『現代世界と国民国家の将来』御茶の水書房,1990年)など

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