連載 ◎ [豊島区・長崎]センセイも歩いた椎名町 第10回 目白最古の BAR なすび

第10回 目白最古の BAR なすび

目白駅前から通りを渡って路地に入って行くと目白最古という「BAR なすび」があります。各地のスナックを訪ねては地元に暮らす人から笑顔をいくつも引き出したTV番組『玉袋筋太郎のナイトスナッカーズ・リターンズ』が今年の春に紹介していました。

年季のしみこんだ笑い声が忘れられずテレビを見て来ました‥‥と訪ねたらマスターの伊藤千秋さんが「これで2人目だ〜」って気さくに迎え入れて下さいます。

伊藤さんが常連のお客陣と話すご時世の話や目白界隈の話が飛び交う途中でストックの缶ビールや発泡酒が切れて、ちょっとそこのコンビニまで仕入れに行く間に、そなえつけのパソコンから『ナイトスナッカーズ』の動画が流れていました。https://www.youtube.com/watch?v=lXbUHgt6dYg

BAR なすび

東京都豊島区目白3−13−22
営業は月曜日、火曜日、木曜日、金曜日 夕方5時から。

お店は戦後の目白駅近くのマーケットがあった頃から伊藤さんのお母様が昭和をずっと切り盛りして来られたそうです。

豊島区は戦前まで麦畑や野菜畑が多くあった自然豊かな風景が広がっていて、時には佐伯祐三など画家によって描かれてもいます。特産物にナスもあったそうです。伊藤さんのお店の名前には関係ないとのことでした。

戦後の目白駅近くのマーケットで古本屋をしていた明善堂の井上さんから「古本屋をやってみる気はないか」と開業を薦められて開業したのが椎名町駅の春近書店の林甲子男さん。

インターネットのない当時、新聞はもちろん本や雑誌の活字への欲求、需要があったのです。

なすびの常連だった方には、その活字を生業にした粕谷一希氏もいました。『中央公論』や『歴史と人物』そして『東京人』の編集長として活躍され、ご自身も評論を多く残されました。(参考 藤原書店『粕谷一希随想集 』全3巻

粕谷氏の暮らした南池袋は、目白駅から学習院に沿って千登世橋から明治通りに降りると広がる界隈で、雑司ヶ谷の鬼子母神で有名です。池袋のイメージキャラのふくろう像が道すがら見つかるりこの界隈は、池袋駅にも目白駅にも遠くなく、少しぶらりと歩くだけで見所が次々と見つかります。

雑司ヶ谷鬼子母神の参道

他県から来るボクにとっては古い民家すらも名跡なのが観光地。有名な地域への羨ましさとともに不思議なのは飽きさせない魅力。どこから来るのでしょう‥‥。

粕谷氏は後年、豊島区のまちづくり活動に積極的に参加をした中で、図書館のあり方について特に熱心な議論の進展を図りました。全国に大型書店ジュンク堂を営む工藤恭孝氏との対談記事では、あえて図書館と新刊書展との話題もとりあげながら、池袋は新刊書店、古書店に並び図書館にも恵まれた土地柄を伝えています。

区の中央図書館は劇場も入る現代的なビルにある一方で、北池袋図書館は静かで庶民的な住宅地域にあり、宮沢賢治作「林の底」に出てくる老フクロウを思わせる像が建っている憩いの場所です。

北池袋図書館

また、椎名町駅から近い目白図書館も住宅地域にありますがこちらはスンナリ着いたことがない迷路のような印象の周辺道路に囲まれています。これらの図書館を巡ってみるだけでも池袋観光ができるでしょう。(豊島区は目白図書館。文京区には目白台図書館もあります。)

東京という都会の有り様を「過去を忘れていく社会」だと粕谷氏は書き残しています。

耐久の限界で建築物の入れ替わりは仕方のないこと。写真や映像の記録に残せます。ここで言う忘れていく過去というのは、歴史の仕組み、構造といった土台のようなものだと思います。なぜその場所にその建物や道が造られてきたか、誰が何の目的で暮らしてきたか。これを忘れることは、人の営みを忘れるのと同じこと。それでは一向に町の深みも共感も得られないのではないでしょうか。

限られた人のために造られた立派な場所もけっこうですが、その近くで観光客などお断りの民家の古び加減に魅力を感じるのは、日常の中にこそ歴史の蓄積は隠されていて、そこに新鮮みや共感を抱くように思うのです。(了)

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文責・板垣誠一郎

参考文献

  • 『一粒入魂!(いちりゅうにゅうこん) 日本の農業をささえた種子屋』(豊島区郷土資料館 2008年度企画展図録)豊島区郷土資料館、2008年
  • 林甲子男「私の昭和史は帝銀事件と共に始まった」語りつぎたい古本屋の昭和史3 『古書月報』303号、東京都古書籍商業協同組合、1987年8月
  • 『培風寮/花岡謙二と靉光(池袋モンパルナス叢書9 池袋モンパルナスそぞろ歩き)』尾﨑眞人監修・編集、池袋モンパルナスの会編集協力、オクターブ、2013年
  • 『文化によるまちづくりで財政赤字が消えた 都市再生豊島区篇』溝口禎三著、めるくまーる、2011年
  • 粕谷一希、工藤恭孝「「本のまち」の底力 知る人ぞ知る、池袋は「一大書店街」。」『東京人 2012年11月増刊 豊島区を楽しむ本』都市出版、2012年
  • 粕谷一希『東京あんとろぽろじい 人間・時間・風景』筑摩書房、1985年

 紹 介

春 近 書 店 haruchika-shoten

「日本の古本屋」URL:
https://www.kosho.or.jp/abouts/?id=12060470

住所:東京都豊島区長崎1-5-2
営業時間:12時〜20時
定休日:月曜日・特例として大雨の日
mail:harutika@qg8.so-net.ne.jp
TEL:03-3957-5454
FAX : 03-3530-5315

夜の春近書店(撮影 板垣)
2018年7月配信開始!
センセイも歩いた椎名町
第1回 ピカピカの町の本屋さん 
第2回 春近書店・林博之さんに聞いた思い出話 
第3回 縁日のキオク 
第4回 小沢昭一さんも歩いた椎名町 
第5回 春近書店 先代・甲子男さんの20代 
第6回 伊藤榮洪先生も歩いた椎名町 
第7回 トキワ荘通り 
第8回 谷端川
第9回 池袋モンパルナスを受け継ぐ
第10回 目白最古の BAR なすび



投稿者: 社会評論社 公式ブログ - 目録準備室 -

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