連載 ◎ [豊島区・長崎]センセイも歩いた椎名町 第9回 池袋モンパルナスを受け継ぐ

第9回 池袋モンパルナスを受け継ぐ

春近書店のある豊島区長崎は芸術家や文化人の暮らした「アトリエ村」のあった地域としても有名で、池袋モンパルナスとも呼ばれ、豊島区郷土資料館はアトリエ村の空間をジオラマで再現させて当時の様子を伝えています。

数年前に豊島区アトリエ村資料室の会の活動(2004〜2011年)が行われた記録が公表されていて、実に600人に届くアトリエ村居住作家の一覧まで作られています。(豊島区のサイト「池袋モンパルナスとよばれたまち」

https://www.city.toshima.lg.jp/artculture/brand/art/atelier-mura.html

アトリエ村に材をとったルポルタージュの大作『池袋モンパルナス ─大正デモクラシーの画家たち─』(宇佐美承著)や、池袋モンパルナスの会による一連の刊行物に出会えます。

アトリエ村について訊ねる来店客向けにと関連図録の品揃えにも春近書店の林博之さんは気を配っています。

春近書店のある椎名町駅はこのアトリエ村の歴史をたどるには交通にも休憩にも便利のいい所にあるようで、せっかくだボクもちょっとかじってみようと図録を選ぶことにしました。

が、待てよ‥‥。

そもそもアトリエそのものになじみがなく、ど〜したもんだろ‥‥と歩いていたら、あら偶然! 「佐伯祐三アトリエ記念館」の案内板を見つけて出向くことに。

ゆるやかな坂の通りから路地に入ると、アパートや垣根のお宅が所狭しと集まる生活感が目立ち、宅配の配達が押す台車に道をゆずったりして、そわそわしながら奥に行くとたしかに目的地。(新宿区のサイト https://www.regasu-shinjuku.or.jp/rekihaku/saeki/1667/

新宿区立佐伯祐三アトリエ記念館(2018年9月撮影)

ちなみにここが新宿区の持ち物なのは、アトリエ村の歴史は豊島区や新宿区に広げてとらえるものなのを教えてくれます。この辺りは目白文化村、もしくは落合文化村と呼ばれたそうです。

実物のアトリエは今からおよそ100年まえに建てられ、老朽化により取り壊されますが持ち主にあやかり佐伯公園として久しくありました所に、画家の功績を伝えるため復元したのが現在の建物です。

パリに画題を求めた佐伯祐三(1898〜1928)はわずか30才で病死します。遺された絵には初めて見ただけで魅了されます。現在アトリエの屋内には偉才の画家が数年だけ暮らした内に描いた周辺(下落合)の風景、大正の終わり1926年頃の東京のむかしを展示しています。

車の往来が途切れない目白通りから密集する住宅地に囲まれているおかげの静けさに、あとここに画材の香りを演出すればきっとタイムスリップできそうな場所です。

アトリエが池袋の町に建てられ画家たちを住まわせたのは東京美術学校(現在の東京藝術大学)の存在があるようですが勉強不足のため保留。

このアトリエ村(文化村)が盛んだった時代に顔を出す本屋がありました。

●ミドリヤ書店は若い芸術家たちから「長崎村の主」と親しみをこめて呼ばれた花岡謙二が、池袋駅西口に大正9〜13年頃に営んだ店で、無名画家の個展を催していた。その後、下宿「培風寮」を開きます。

●真砂書店も池袋駅西口に太平洋戦争の頃まであったお店。ここの客には詩人の小熊秀雄、山之口貘らがいたり、文士や画家のたまり場だったという記録があります。小熊秀雄はアトリエ村に池袋モンパルナスと名付けた当人でもあります。長崎に暮らしていました。

書店によっては芸術家たちにとっての憩いの場、交流の場となっていたようです。

●『東京古書店組合五十年史』に昭和14年頃の東京各地にあった古本屋を記録した地図の池袋はちょうどアトリエ村のあった時代です。その中に「高野」の屋号が見えます。高野書店といえばその2代目であった高野之夫氏は後に区議会議員から都議会議員、1999年より豊島区長として池袋を〝文化〟でまちづくりに取り組み続ける方です。高野書店が芳林堂書店池袋本店(1946〜2003年)の8階で営まれた時期もありました。

ことし2018年、丸善ジュンク堂書店の芸術書を担う書店員たちで選書したフリー冊子『丸善ジュンク堂書店美術書カタログ2018 defrag2』が発行されました。本の売り場が変貌し続ける苦境にあって、この試みは果敢であり、仕事の本分を追求する人たちの姿を見る思いです。美術の価値を育むために本屋という場所は今も必要とされているのではないでしょうか。

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文責・板垣誠一郎

参考文献

  • 『アトリエ村資料室のあゆみ 2004〜2011』豊島区アトリエ村資料室の会、2013年
  • 宇佐美承『池袋モンパルナス ─大正デモクラシーの画家たち─』集英社文庫、1995年(初版、1990年、集英社)
  • 『長崎アトリエ村史料 豊島区郷土資料館調査報告書第3集』豊島区郷土資料館、1987年
  • 『東京古書店組合五十年史』小林静生編集責任、東京都古書籍商業協同組合発行、1974年
  • 『培風寮/花岡謙二と靉光(池袋モンパルナス叢書9 池袋モンパルナスそぞろ歩き)』尾﨑眞人監修・編集、池袋モンパルナスの会編集協力、オクターブ、2013年
  • 『文化によるまちづくりで財政赤字が消えた 都市再生豊島区篇』溝口禎三著、めるくまーる、2011年
  • 『東京人 2012年11月増刊 豊島区を楽しむ本』都市出版、2012年

 紹 介

春 近 書 店 haruchika-shoten

「日本の古本屋」URL:
https://www.kosho.or.jp/abouts/?id=12060470

住所:東京都豊島区長崎1-5-2
営業時間:12時〜20時
定休日:月曜日・特例として大雨の日
mail:harutika@qg8.so-net.ne.jp
TEL:03-3957-5454
FAX : 03-3530-5315

夜の春近書店(撮影 板垣)
2018年7月配信開始!
センセイも歩いた椎名町
第1回 ピカピカの町の本屋さん 
第2回 春近書店・林博之さんに聞いた思い出話 
第3回 縁日のキオク 
第4回 小沢昭一さんも歩いた椎名町 
第5回 春近書店 先代・甲子男さんの20代 
第6回 伊藤榮洪先生も歩いた椎名町 
第7回 トキワ荘通り 
第8回 谷端川
第9回 池袋モンパルナスを受け継ぐ
第10回 目白最古の BAR なすび



投稿者: 社会評論社 公式ブログ - 目録準備室 -

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