連載 ◎ [豊島区・長崎]センセイも歩いた椎名町 第8回 谷端川

第8回 谷端川

椎名町駅まえの長崎神社の入口に夕涼みをする猫がいて、ずいぶん人慣れしているようでこちらの手のひらをよける気配いっさい見せず、よくなでられます。神社に近い春近書店から時間が来ると林さんに連れられた飼い犬のクーちゃんにはここが定番の散歩コースになっているそうで、まア言うなれば参詣にいらっしゃる。
長崎神社に姿を見せる夕涼みの猫
何とものんびりとした雰囲気が駅まえ界隈にはあって、どうしても夕方となれば何軒かある飲み屋ののれんをくぐりたくなってしまいます。 そんな飲み助は置いときまして、もう少し行くと横丁より広い道幅の椎名町サンロードがあります。聞くところではこの通りに昔、西武池袋線の線路に背を向けるかっこうで小川が見えていたのでした。向こうから流れて来る川の名は谷端川(やばたがわ、やわたがわ)。 今も涸れておりませんで、暗渠(あんきょ)工事によって通りの下をサラサラ流れ、サンロードから春近書店の横丁にぐいっと舵を切りまして長崎神社の方へ回ってその後いったん北に戻って池袋駅の繁華を避けるように大塚駅の方へ向かいましてついには東京ドームのある神田川まで続く。なにせ暗渠ですからね、見えるわけじゃありませんよ。でもすごい。暗渠前の面影を追って豊島区郷土資料館友の会の方々による調査『旧谷端川の橋の跡を探る』という記録が残されています。 さて、歩いていたら雨になる。ちょうど雨宿りに都合のいい「椎名町カフェ」http://shiinamachi.favy.jp/ がやっていて、窓辺の席でしばらく表を眺めてみました。まぁ表の舗装されたコンクリートをにらんでもその下の川を透視できませんので、頭の中で、谷端川の流れを想像します。この雨水もしみこんでって川の水に加わり神田川まで‥‥ってそこまで降ってやしない。NHKならさしずめ音楽とCGでドラマチックに演出の始まる場面ですよ。
雨の日の椎名町サンロード
春近書店の林さんがこの町で少年時代を送った昭和30年代まで谷端川は町の風景にとどまっていました。それよりさらにずっと前の話ですが、地元の子どもたちにはかっこうの遊び場だったようで、ゲコゲコゲ〜コと蛙が鳴いたり、蛍までホロホロ集まってきたと言うから大したもの。それが戦後には工場排水や人工の密集でゴミが捨てられ悪臭を放つこともあって、これではいけないと、数年かけて暗渠工事が進められ見た目には姿を消しました。蛙も蛍も、どこかへ行っちゃった。

椎名町サンロードに続く春近書店並ぶ商店街
台風で大雨になれば谷端川の水があふれて相当大変だったこともあったようでありまして、春近書店の横丁にも水が来てしまったことがあって、その昔は入った水を外に流すための穴が店内に作ってあったと林さんが話して下さいました。 住まいを兼ねていた店の奥で家族が食卓を囲みながら、お客ではなく町に溢れた水がじわりじわり入ってくるのを眺めた時には、 「アララ、お父さん、水が入って来ちゃったよ〜」 「いいから食べなさい。みそ汁が冷めちゃうぞ」 ってそんな気楽なわけないでしょうが・・・。 消防団が横丁をボートに乗って見回りに来る。 「春近さん、大丈夫ですか」 「大丈夫です、食欲ありますよ」 「そんなこと聞いてやしませんよ」 冗談で済むウチはいいのですがネ‥‥。 今でも表が雨になると飼い犬のクーちゃんが知って知らずか心配顔です。ご近所の誰かともなく雨が降ってきましたよ、外の本が濡れるよって声をかけてくれる椎名町駅まえの商店街。
春近書店の飼い犬クーちゃん
ことしも自然災害が続いています。台風も地震も多く、そのために尊い命が失われています。皆さんのお住まいはいかがでしょうか。 避難方法の声に自分はちゃんと向き合っているのでしょうか。他人事と思ってやり過ごしていないでしょうか。その妄信の消えないうちは、谷端川の歴史を追ったところで仕方ないかも知れません。
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文責・板垣誠一郎

参考文献
  • 豊島区郷土資料館友の会『旧谷端川の橋の跡を探る』1999年
  • 「わたしの豊島紀行40 金沢佑光(4)谷端川」東京都豊島区企画部広報課編『わたしの豊島紀行』所収、東京都豊島区発行、1993年
  • 『ぶらり長崎 ─歴史・文学散歩─』伊藤榮洪、豊島区発行、2018年

2018年7月配信開始!
センセイも歩いた椎名町

第1回 ピカピカの町の本屋さん
第2回 春近書店・林博之さんに聞いた思い出話
第3回 縁日のキオク
第4回 小沢昭一さんも歩いた椎名町
第5回 春近書店 先代・甲子男さんの20代
第6回 伊藤榮洪先生も歩いた椎名町
第7回 トキワ荘通り
第8回 谷端川
第9回 池袋モンパルナスを受け継ぐ
第10回 目白最古の BAR なすび

紹 介

春 近 書 店

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「日本の古本屋」URL: https://www.kosho.or.jp/abouts/?id=12060470
住所:東京都豊島区長崎1-5-2 営業時間:12時〜20時 定休日:月曜日・特例として大雨の日 mail:harutika@qg8.so-net.ne.jp TEL:03-3957-5454 FAX : 03-3530-5315
夜の春近書店(撮影 板垣)



投稿者: 社会評論社 公式ブログ - 目録準備室 -

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