| 詳細 | マルクス剰余価値論形成史 森田成也/著 


マルクス剰余価値論形成史

The History of the Formation of Marx’s Theory of Surplus value

森田成也/著

 

A5判ソフトカバー/296頁
ISBN978-4-7845-1854-8 C0030 定価=本体2800円+税

概 説

マルクスの理論を正確に知るためには、それがどこからどこへ、そして何を経由して成立・発展してきたのかを知る必要がある。そのような成立と発展の複雑な過程を理解して初めて、マルクスの理論を深く学ぶことができるのであり、またそれをいっそう発展させるためにはどのような方向をたどればいいのかのヒントも得ることができる。

本書はそうした理論的作業のひとつとして、マルクスの剰余価値論の形成史を、主として前期著作の『哲学の貧困』や『賃労働と資本』から、後期著作の『賃金・価格・利潤』や『資本論』(初版および2版とフランス語版を含む)に至るまでを批判的に検証し概観する。


目 次


序文

第1章 マルクス剰余価値論形成小史 ―『賃労働と資本』から『賃金・価格・利潤』へ ─

第1節 『資本論』への長い道のり
第2節 『賃労働と資本』の背景と全体像
第3節 『賃労働と資本』の内容とその諸限界
第4節 「賃金」草稿の意義とその具体的内容
第5節 エンゲルスによる序論と修正
補 論  シスモンディにおける「労働」と「労働能力」との区別
第6節 『賃金・価格・利潤』の背景と意義
第7節 『賃金・価格・利潤』の具体的内容

第2章 マルクス剰余価値論の形成と「リカードのドグマ」

第1節 「リカードのドグマ」とは何か?
第2節 初期・前期マルクスにおける「リカードのドグマ」
第3節 「リカードのドグマ」の克服Ⅰ ―剰余価値の発生メカニズムの解明
第4節 「リカードのドグマ」の克服Ⅱ ―「追加的な絶対的剰余価値」論の確立
補 論 『資本論』における労働日延長と労働力価値増大の論理
第5節  「リカードのドグマ」の克服Ⅲ ―「内包的な絶対的剰余価値」の発見
第6節  『資本論』における到達点と限界
第7節 「リカードのドグマ」の二重性

第3章 マルクスにおける「価値生産物」概念の形成と 「スミスのドグマ」

第1節  「スミスのドグマ」と「価値生産物」概念
第2節  現行版『資本論』における「価値生産物」
補論1 現行版『資本論』各版の「事項索引」における 「価値生産物」
第3節  「経済学批判要綱」における「価値生産物」と「v+mのドグマ」
第4節 1861~63年草稿における「価値生産物」と「v+mのドグマ」Ⅰ ―前期段階
第5節 1861~63年草稿における「価値生産物」と「v+mのドグマ」Ⅱ ―中期段階
第6節 1861~63年草稿における「価値生産物」と「v+mのドグマ」Ⅲ ―後期段階
第7節 1863~65年草稿における「価値生産物」概念の登場Ⅰ ―『直接的生産過程の諸結果』と3巻「主要草稿」前半
補論2 1863~65年草稿の執筆順序
第8節 1863~65年草稿における「価値生産物」概念の登場Ⅱ ―2巻「第1草稿」と3巻「主要草稿」後半
第9節 初版『資本論』とそれ以降における「価値生産物」 概念の確立

あとがき
索 引


[本書あとがき]

私がマルクスの剰余価値論の構成に疑問を持ったのは、今から30年ほど前の学生時代のときである。その後、大学院に進学して、修士論文の中でこの問題を簡単に扱った。修士論文のテーマは『資本論』におけるマルクスの方法論に関するもので、『資本論』における「普遍と特殊の弁証法」および「普遍、特殊、個別の弁証法」を『資本論』の具体的な叙述に即して明らかにすることを課題としていた。その中で私は、マルクスが、特別剰余価値を相対的剰余価値の一種のようにみなしていて、剰余価値の生産を絶対的剰余価値の生産と相対的剰余価値の生産の2つに分けていることに異論を唱え、特別剰余価値を絶対的剰余価値(普遍=個別)と相対的剰余価値(個別=普遍)とを媒介する中間的なカテゴリー(特殊)として独立させる必要を説いた。しかし、この段階ではまだ純粋に方法論的な批判にすぎなかった。

しかし、その後、私はこの問題意識をそれ以上発展させることなく、まったく別の研究テーマに没頭し、剰余価値論の研究から10年以上遠ざかることになった。剰余価値論の研究に戻ったのは2004年頃からであり、マルクス剰余価値論の再構成を目的とした最初の著作『資本と剰余価値の理論―マルクス剰余価値論の再構成』を出版したのが2008年だった(作品社)。そこにおいてはじめて、方法論的な批判を超えて、マルクス剰余価値論の実体的内容を具体的に批判し、それに対するオルタナティブを明示した。それからちょうど10年。その間に、その続編となる『価値と剰余価値の理論』(作品社、2009年)で複雑労働をめぐるマルクスの議論を批判し、『家事労働とマルクス剰余価値論』(桜井書店、2014年)で家事労働と「労働力の価値分割」に関するマルクスの議論を批判した。本書はついにこのシリーズの4冊目となる。本書は、マルクス剰余価値論の再構成をめざす4部作の最後を飾るものであり、マルクス剰余価値論の理論形成史を批判的に扱っている。これによって、30年前に持つことになった理論的宿題をおおむねを果たすことができた。

マルクス剰余価値論の再構成に取り組むうちに私は、剰余価値論のみならず、マルクスの『資本論』全般にわたってその発展的再構築に取り組む必要性を痛感するようになった。しかし、『資本論』第1巻の剰余価値論に取り組むだけで10年以上かかり、4冊もの著作になったのだから、このようなテンポと密度で『資本論』全体の再構成に取り組んだなら、研究者としての生涯がいくつあっても足りないだろうし、何十冊もの研究書を書かなくてはならなくなるだろう。それゆえ、今後は、もう少し密度を落としつつ、『資本論』全体の再構成に取り組むつもりである。その最初の試みが、『資本論』の1巻全体の再構成をめざした『マルクス経済学・再入門』(同成社、2014年)である。現在、この続編に取り組んでおり、『資本論』2巻と3巻の内容を対象にその理論的再構成に取り組んでいる。すでに9割がた終わっているので、来年にはその成果を出すことができるだろう(それを出版してくれる出版社があるとすればの話だが)。

『資本論』という著作があまりにも偉大だったために、その後のマルクス経済学者のほとんどがその「正しい解釈」に没頭するようになった。何らかの批判がなされても、ごく部分的であるか、しばしば的外れだった。だが初版が出版されてから150年以上が経った今日、そろそろこのような水準から卒業し、マルクス経済学を理論的に発展させ、新たな水準の理論体系の構築へと向かうべき時である。「正統派」でも「宇野派」でもない、第3の道、すなわち「批判的マルクス経済学」の集団的構築こそ、21世紀におけるマルクス経済学者の共通の課題であると私は考える。


[著者紹介]森田成也(もりた・せいや)1965年生まれ。国学院大学非常勤講師。著書に『資本主義と性差別―ジェンダー的公正をめざして』(青木書店)、『資本と剰余価値の理論―マルクス剰余価値論の再構成』『価値と剰余価値の理論―続マルクス剰余価値論の再構成』(作品社)、『家事労働とマルクス剰余価値論』(桜井書店)、『マルクス経済学・再入門』(同成社)、『ラディカルに学ぶ「資本論」』(柘植書房新社)。訳書に、トロツキー『レーニン』『永続革命論』『ロシア革命とは何か』(光文社古典新訳文庫)、マルクス『賃労働と資本/賃金・価格・利潤』『「資本論」第一部草稿―直接的生産過程の諸結果』(光文社古典新訳文庫)、キャサリン・マッキノン『女の生、男の法』上下(共訳、岩波書店)、デヴィッド・ハーヴェイ『新自由主義』『資本の〈謎〉』『〈資本論〉入門』『反乱する都市』『コスモポリタニズム』『〈資本論〉第二巻・第三巻入門』(共訳、作品社)など多数。

 

購入サイト(外部リンク)

Amazon


 

投稿者: 社会評論社 サイト

社会評論社 SHAKAIHYORONSHA CO.,LTD.