連載 ◎ [豊島区・長崎]センセイも歩いた椎名町 第3回 縁日のキオク

第3回 縁日のキオク

古い昭和の頃の椎名町駅の風景を、藤子不二雄A先生が描いています。駅から人びとが往来する夕暮れ時。ホームに電車が入線しています。その光景を眺める主人公の2人が立つのは駅の近くの橋でしょう。これは『第二部 まんが道 第一巻春雷編(一)』のコミックスのカバー絵です(F.F.ランド・スペシャル、中央公論社、1987年刊)。

椎名町駅は長く北口だけだったため、人の流れが自然と駅前商店街に向かいます。ちなみに、藤子先生の絵にも、駅前の踏切が開くの待って南口側に向かう人の様子も描かれています。

山手通りを線路の上で持ち上げる陸橋(椎名橋、大和田橋)から椎名町駅を眺めてみます。橋と駅との距離感がコミックスの絵に重なります。

林博之さんが少年のころ、ずっと先の池袋駅の方で起きたデパート火事がこの陸橋から見えたンだそうです。

2018年7月 陸橋からみた西武池袋線椎名町駅北口

春近書店が椎名町駅に続く商店街に店を出したのは、戦争に負けた日本がまだ復興のさなかにあった昭和22年、1947年のことでした。

林博之さんのお父さんが故郷長野県伊那市の東春近村からとった春近書店の屋号からは、30才を迎え家族とともに椎名町で戦後を生き抜こうという決意が感じられます。先代のお父様のお話は改めてご報告いたしますのでお楽しみに。

長崎神社境内

駅の北口からすぐ、長崎神社と別当寺(神仏習合説に基づいて神社に設けられた神宮寺のこと)の金剛院があります。ここにはマンガ地蔵もあります。長崎神社の名前は明治時代のはじめに付けられましたが、もともと江戸時代から続いている由緒ある場所だそうです。

マンガ地蔵

長崎神社の例大祭は9月の第2土曜日と日曜日。春の5月にも郷土芸能の獅子舞祭りが開かれます。

9月の大祭り、長崎神社の縁日を写した貴重な1枚。(写真提供 春近書店・林博之)

この5月、それを見物にとはるばる向かいましたが寝坊の失態。たどり着いた時はちょうど椎名橋下の広場に参加した子どもたちと関係者が集まってクライマックスを迎えていました。仕方ないのでこういう時は一杯飲むのがよかろうと、アーケード街のとんかつ恵比寿にてヱビスビールをくいっといただきまして、サクサクのとんかつを味わうこととあいなりました(?!)。

ほろよいで写した椎名橋下での獅子舞祭り(2018年5月13日 撮影・板垣)

観光用に作られた「豊島区文化財ブックレット1 長崎獅子舞のおはなし」にはマンガの来歴とわかりやすい解説がされています。由緒は江戸時代の話です。病気が流行したり、五穀豊穣や雨乞い、厄除け、天下泰平を祈るための獅子舞には「悪疫をふみつけるように片足ずつ順番にふみこみます」という意味が込められているンだそうです。

こうした所を訪ねますと長崎神社や金剛院の周辺に暮らす営みのために椎名町駅は造られたのかなぁと思えます。西武鉄道にお詳しい方にいずれご教示いただくことにしまして先へご案内。

林さんはきっすいの椎名町っ子で、昭和30年(1955)生まれ。子どもの頃の記憶にある椎名町は、縁日で通りが人でごった返す町なのでありました。藤子不二雄A先生が描いた駅前のようすが、林さんがまだ少年だった頃の時代に重なります。

金剛院の長崎不動尊から縁日の露店が出されるのは8のつく日。毎月8日、18日、28日。地元の方なら「八の日」と言って分かるわけですが、不慣れなためご容赦。

その日ともなれば商店街は夜遅くまで露店目当てにやってくる人ですごかった! 露店は神社の周辺にととまらず、春近書店のある通り辺りも及んだという話です。「向こうの先のまで人がワンサカワンサカすごかったよ~。」人の足が春近書店に向くのも自然なことです。

当時は商店街に数軒のパチンコ店がありました。その中の1軒は春近書店と近いこともあってふだんからのお付き合い。それがある朝のこと。林さんの家、春近書店にパチンコ屋の主人が挨拶にやってきた。次第に涙声になっているのが分かる。実は私たちこれから椎名町を出ることになりました‥‥。どうしたンだろう。不思議に思っていた林さんでしたが、その後、彼らが「帰国運動」で朝鮮半島に向かったことを知りました。

縁日に話を戻します。春近書店を出てすぐの角でバナナのたたき売りが出ていた話にしましょう。夕方から夜10時くらいまでやっていて、春近書店の営業が終わるころに林さんのお母さんは買いに行ってらした。安いものから売れて行ったそうですが、するとバナナも何種類かあったのでしょうか‥‥。

店先から長崎神社に通じる道は縁日ともなると露店が出る場所だったようです。バナナのたたき売りが出ていた辺りに今はコンビニが並んでいます。

たたき売りと言えば映画『男はつらいよ』の寅さんばかり連想します。バンバンバン‥‥! たたき売りのおじさんが、定規のようなご愛用の道具で台をたたき衆目を集めます。バナナだ、安いよ、買った買ったぁ! ってなイメージですね。

あのぅ、バナナ以外にも売っていなかったんでしょうか‥‥。僕はたたき売りを知りません。バナナだけ売っていた光景がどうしても想像つきません。

──そうだねぇ、生地とか瀬戸物、それとワタアメなんかもあったねぇ。近くに植木屋さんも出ていました。

ワタアメと聞いてちょっと昔の記憶がひっかかりました。そういえば、ワタアメをおじさんが売っていたのなら知っている。割り箸をくるくるまわして、おっきなのを作ってくれて、それを大人用の枕みたいなビニール袋に入れてくれた‥‥。

コンビニで渡される割り箸を見ても、全然忘れていた記憶です。

リンゴでもミカンでもなく何でバナナをメインに売ったンでしょう‥‥。バナナは高級だったと上の世代が話したのを思い出します。まだ目新しく珍しい果物だったから、売る醍醐味があったってことなンですよね、きっと。

林さんは、生の売り声を聞けた世代。本物のバナナのたたき売りの声、聞いてみたいなぁ。素直にそう思います。

──小沢昭一の『日本の放浪芸』って知りません?

林さんが言うんで知ってますって応えましたが、実はそれレコードのことだったのです。そのレコードに、椎名町のバナナのたたき売りが収められているという話なのです。

僕は本でしか知らないですが、かつて『日本の放浪芸 小沢昭一が訪ねた道の芸・街の芸』(7枚組、昭和46年度日本レコード大賞企画賞)をはじめ、『又 日本の放浪芸 小沢昭一が訪ねた浮世芸術』(5枚組、昭和48年度芸術選奨受賞)『また又 日本の放浪芸 節談説教 小沢昭一が訪ねた旅僧たちの説法』(6枚組)といった音の記録があったのです。

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文責・板垣誠一郎


 紹 介

春 近 書 店 haruchika-shoten

「日本の古本屋」URL:
https://www.kosho.or.jp/abouts/?id=12060470

住所:東京都豊島区長崎1-5-2
営業時間:12時〜20時
定休日:月曜日・特例として大雨の日
mail:harutika@qg8.so-net.ne.jp
TEL:03-3957-5454
FAX : 03-3530-5315

夜の春近書店(撮影 板垣)
2018年7月配信開始!
センセイも歩いた椎名町

第1回 ピカピカの町の本屋さん 
第2回 春近書店・林博之さんに聞いた思い出話 
第3回 縁日のキオク 
第4回 小沢昭一さんも歩いた椎名町 
第5回 春近書店 先代・甲子男さんの20代 
第6回 伊藤榮洪先生も歩いた椎名町 
第7回 トキワ荘通り 
第8回 谷端川
第9回 池袋モンパルナスを受け継ぐ
第10回 目白最古の BAR なすび

 


投稿者: 社会評論社 公式ブログ - 目録準備室 -

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