特設サイト 野添憲治さんの遺した仕事(社会評論社)

書斎にて(撮影 板垣誠一郎)

ことし2018年4月に野添憲治さんは逝去されました。社会評論社では2005年『秋田県における朝鮮人強制連行─証言と調査の記録─』から2期にわたる野添憲治著作集(みちのく・民の語り全6巻、シリーズ・花岡事件の人たち全4巻)、2016年『樺太(サハリン)が宝の島と呼ばれていたころ─海を渡った出稼ぎ日本人─』まで刊行ができました。野添さんは戦争体験者として最期まで秋田を中心に人々の声を紡ぎ続けてこられました。哀悼の意をこめ、2012年刊『みちのく銃後の残響─無告の戦禍を記録する─』より序文を公開します。


「みちのく銃後の残響」より

野添憲治


二七歳の時から聞き書きをはじめた。ことばで表現しない人たちの記憶や体験を聞き、書き留めてきた。生活している現場も歩き、暮しを掌や目、耳で確かめることも同時にしてきた。それらが記録としてわたしの所に残されている。多くの人たちの記憶や体験が、記録として生き続けている。

わたしと同じふるさとの村に、コウという女性がいた。わたしより少し先の時代を生きた人だが、苦労して育てた長男に赤紙がきた。出征したあと、北国秋田でも珍しく、三月になっても猛吹雪の日が続いた。胸騒ぎを感じたコウは、入営した兵舎を尋ね歩き、ようやく見つけたが面会は許されず、悔し涙を流しながら帰った。その一カ月後に死亡通知が届き、白木の柩が届いた。内地で死んだのに、白紙が一枚だけ入っていた。一人生き残った長女に婿を取り、姑と夫の葬儀を出した後も黙々と働き、長男が戦死して二〇年たった時に墓を建て、白紙を納めた。七八歳で息を引き取る時に、「貧乏でも、体悪くてもおっかなぐねがったが、息子をお国に預けて死なせたのは情けない」と長女に訴えたという。二年後に長女から聞き、コウの口惜しさに涙して記録した。わたしの記録を読み、コウの訴えに涙した人たちから連絡が届いている。

ことしは日本の韓国併合から一〇二年、日本が朝鮮人強制連行を始めて七五年になる。だが、いまだに日本政府は調査さえ着手していない。わたしの住む秋田県を見ると、県では調べていないし、県に情報公開制度を利用して資料を求めたがなにも出してくれない。他県のように労働組合も調査していない。一九九六年に調査団をつくり、これまで手弁当で調査をしてきた。一七年の間に、朝鮮人の労働現場を七七事業所、朝鮮人連行者一四、三三〇人を明らかにしたものの、これで責任をとったことにはならない。敗戦後、日本は、わたしたちはどう生きてきたかも、問わなければいけない。

日本の敗戦と同時に朝鮮人は無一文でクビになり、運よく秋田県から帰国できた人が韓国に生存していることがわかり、二年前から韓国に行って聞き書きをしている。どの人も九〇歳近くになり、病気でベッドに寝たり、歩行器の人もいた。かつて連行されて働いた秋田県から来たことに驚き、話を聞いて帰る時に、「遠くから来たお客に食事もだせない」と、泣いて詫びる人もいた。

強制連行された日本からようやく故郷に帰ると、こんどは朝鮮戦争に動員された。生きて帰ったが、仕事がないので暮していけない日々が続く。生活できないので、ベトナム戦争に雇われて行った人も多かったという。先頭に立って戦い、戦死した人も沢山いたと聞いた。農山村の中にある立派な家を、「ベトナムで働いたカネで建てた」と教えてくれることもあるが、深くは語らない。日本の韓国併合から強制連行と続いた受難は、朝鮮戦争やベトナム戦争と続いたことを、日本では知る人が少ない。植民地化された現地に行くと、傷跡は深く残っている。

記録されない体験や記憶は、そのままにしておくと土に埋もれ、海に沈む。白骨のまま残り、二度と浮上することはない。長い年月の後に、砕けて消える。その多くの体験や記憶の近くで生きているわたしたちには、記録して残しておくことが求められている。かつて鶴見俊輔さんが、国家が犯した罪を国家が償わない時は、民衆が手弁当でその罪を償わないといけないと、遠い昔に言われたことがある。そのことばはいまもわたしの心の底に生き続けている。大切なことを知らせて下さったことに、感謝している。

2012年

無告の骨が眠る、みちのくの現在。

民話採集が呼び戻した軍国少年のまがまがしき記憶。著者は花岡事件取材から中国人・朝鮮人強制連行の現場取材を今なお続ける。小林多喜二の母や満蒙開拓時代のいわさきちひろを語る銃後の人びとへの聞き書き、農民文学・食文化の深みを伝える講演録、赤坂憲雄、熊谷達也との対談も収録。跋文・相馬高道。

 

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投稿者: 社会評論社 公式ブログ - 目録準備室 -

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