|| 詳報 || 『明治日本の産業革命遺産・強制労働Q&A 』竹内 康人/著

2018年5月刊『明治日本の産業革命遺産 強制労働Q&A 』竹内 康人/著 冒頭部分と目次詳細を公開。


はじめに


日本政府は官邸主導で「明治日本の産業革命遺産」をユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の世界遺産に登録しました。もともと「九州・山口の近代化産業遺産群」の名で登録しようとしたのですが、途中で「明治日本の産業革命遺産」と名称を変更しました。

世界遺産推薦書のダイジェスト版『明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業』(2016年初版)には、つぎのように記されています。

テクノロジーは日本の魂です。「明治日本の産業革命遺産」は国家の質を変えた半世紀の産業化を証言しています。蘭書を片手に西洋科学に挑んだたちは、半世紀の時を経て、近代国家の屋台骨を構築しました。日本は自らの手で産業化をすすめ、植民地にならずに、地政学上における日本の地位を世界の舞台に確保しました。後に日本を世界の経済大国に押し上げる重工業の基盤をつくりました。この産業革命遺産には、顕著な普遍的価値があります(要約)。

この文章を読んでどう感じますか。「日本の魂」とは何でしょう。明治以降、国家の質はどのように変わったのでしょうか。地政学上の舞台の確保が、アジア・太平洋での戦争につながったのではないか、なぜ他国の植民地化や戦争についてふれないのか、資本・技術の評価のみでいいのか、国際関係や労働の視点はないのかという意見もあるでしょう。「侍」の成功物語としての宣伝でいいのか、産業化という価値基準の強調のみでいいのかという問いを持つ方もいるでしょう。

私たちは産業革命の遺産から何を学ぶことができるのでしょうか。何をもって普遍的価値とするのでしょうか。

「明治日本の産業革命遺産」では、幕末から明治末の1910年までの産業革命遺産が対象とされています。そこでは明治維新による産業化が賛美されています。戦争、植民地支配、労働に関する考察は示されず、戦争による産業革命の展開とそれによる支配地の拡大に関する記述はありません。

石炭、製鉄、造船は産業革命の柱でした。産業革命による産業資本の形成は多くの労働力を必要としました。労働者階級の形成は労働運動を生みました。産業化は、海外での資源の獲得と市場の拡大をすすめ、侵略戦争と植民地支配につながりました。「明治日本の産業革命遺産」とされた製鉄所、長崎造船所、高島・炭鉱、炭鉱などでは、戦時下、強制労働がおこなわれました。それらの現場は、戦争経済を支える場所となり、長崎原爆、八幡空襲、空襲など米軍による攻撃を受けました。産業革命の歴史はこのような戦争や労働の視点からとらえることも大切です。

日本の産業革命の施設を世界遺産とするならば、ユネスコの理念である人類の知的・精神的連帯に寄与し、平和と人権を尊重する普遍的な精神をつくるという活動に合致するものでなければなりません。産業遺産の紹介では、労働者の権利、強制労働の克服、国際協調の提示などは欠くことができないものです。

この本では、「明治日本の産業革命遺産」とされた八幡製鉄所、長崎造船所、高島・端島炭鉱、三池炭鉱の歴史とそこでの戦時の強制労働について記しました。隣国の韓国や中国から「明治日本の産業革命遺産」を訪れる人びともいます。「強制労働はなかった」と過去を否定することはできません。外国からの訪問者が共感できるような、普遍的、国際的な視点を持った説明が必要であると思います。


目 次


はじめに

1 「明治日本の産業革命遺産」と強制労働

1…ユネスコの世界遺産とは何ですか
2…産業や労働に関する世界遺産にはどのようなものがありますか
3… 「明治日本の産業革命遺産」とは何ですか
4…朝鮮人・中国人・連合軍捕虜の強制動員数はどれくらいですか
5…なぜ強制労働が問題になったのですか
6…日本政府の強制労働の見解はどのようなものですか

2 八幡製鉄所

1…八幡製鉄所はどのようにできたのですか
2…八幡製鉄所での労働運動についてわかりますか
3…日本製鉄とはなんですか
4…戦時の強制労働者の数はどれくらいですか
5…体験者の証言がありますか
6…八幡に遺跡や碑がありますか

3 長崎造船所

1…長崎造船所はどのようにしてできたのですか
2…戦時の強制労働についてわかりますか
3…体験者の証言はありますか
4…三菱長崎造船所の戦後補償裁判とはなんですか
5…長崎に遺跡や碑がありますか

4 高島炭鉱

1…高島炭鉱はどのようにしてできたのですか
2…高島炭鉱での労働者の状態についてわかりますか
3…三菱鉱業の強制労働についてわかりますか……85
4…戦時の強制労働についてわかりますか
5…体験者の証言がありますか
6…高島に遺跡や碑がありますか

5 端島炭鉱

1…端島炭鉱はどのようにしてできたのですか
2…戦時の強制労働についてわかりますか
3…体験者の証言がありますか
4…端島はいまどうなっていますか

6 三池炭鉱

1…三池炭鉱はどのようにしてできたのですか
2…受刑者の強制労働についてわかりますか
3…戦前、三池に労働運動はあったのですか
4…戦時の強制労働についてわかりますか
5…体験者の証言がありますか
6…三池に遺跡や碑がありますか

7 強制労働の記録と継承

1…明治賛美の歴史認識のどこが問題ですか
2…朝鮮人強制労働の認知がなぜ必要なのですか
3…情報センターで強制労働について記すことがなぜ必要なのですか
4…企業による過去の清算はどのようにすすみましたか
5…産業遺産で何を語り伝えますか

[コラム]
❶吉田松陰の思想とアジア
❷釜石と製鉄
❸「砲艦外交」と反射炉
❹圧制ヤマでの強制労働
❺筑豊の炭鉱と朝鮮人追悼碑
❻官邸主導の「明治日本の産業革命遺産」


明治150年の今年、安倍首相の肝入りでユネスコに登録された「明治日本の産業革命遺産」が、脚光を浴びつつある。

しかし、産業化の「成功」が、戦争や強制労働、植民地支配のもとで成し遂げられたという視点は少ない。

明治以降の近代化の現場で何が起きていたのか。写真とQ&Aによる解説。


A5判並製169頁 定価=本体1800円+税
ISBN978-4-7845-1209-6 C0030


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投稿者: 社会評論社 サイト

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