*一度は幻となった東京が今に伝える物語* 『東京府のマボロシ ─失われた文化、味わい、価値観の再発見』ほろよいブックス編集部編

現代を生きるモダンガール淺井カヨ氏の特別寄稿をはじめ、幻の「1940 TOKYO ORINPIKU」にまつわる「幻の東京オリンピック盃」秘話、アメリカが生んだ氷産業と函館氷の歴史を掘り起こした「慶応三年のパリ万博」はバーテンダー必読の物語、内田誠をめぐる文人の交流曼荼羅「「会社員」内田誠とスヰート」などなど、368ページいっぱいに詰め込んだ”東京のむかし”。都市東京をめぐる物語は、為政者ではなく庶民の物語。今を生きるわたしたちに新しい発見を教えてくれます。


本書口上


「時に、伺うが、金は東京のどこに置いてあるのだ。」「東京?」「江戸でいい。」「ははあ、江戸なんて、もう地図の上にはなくなっている。」
大佛次郎「新東京絵図」(『鞍馬天狗』第六巻、中央公論社版、一九六〇年)より

引用は、敗戦後『苦樂』という雑誌で当時の人気ヒーロー鞍馬天狗が活躍するお話「新東京絵図」からの一節。舞台は徳川幕府が倒れて日の浅い混沌とした東京。物語の終盤、両者にらみ合いの中で作者・大佛次郎は主人公に「ははあ、江戸なんて、もう地図の上にはなくなっている」と言わせます。地図を変えてしまう為政者と庶民との間には、とかく隔たりができますようで…。

江戸が東京に名を変えますのが明治維新。維新という言葉は今もお好きな向きがございます。まア庶民は維新より地震の方が気になるところ。東京はトーケイだトキオだTOKYOだ色々呼ばれますが、そもそも京都から見て東の京。現在は首都らしく東京都でございますが、昔は府がついていた。京都府、大阪府、そして東京府。東京に都をつけたのは戦争中からなンだそうですナ。

江戸から東京、東京府から東京都。和暦で申しますと明治、大正、昭和の前期。西暦ならば1868年から1943年。いわゆる近代史でございます。大人のワレワレには、お酒を片手にこれを学ぶ自由がある。ほろよい見える東京府のマボロシ。本書少々長丁場でございます。お酒におつまみ、酔い覚ましのお茶もご準備下さいませ。まずは目次でご機嫌うかがい。銘々並びました話からお気の向くままお進み下さい。さア、口開けといたしましょう。


内 容


第一部 水

モラエスの夢 葡萄牙国領事モラエスと第五回内国勧業博覧会

宮崎隆義

まずはメニュー/ヴィーニョ◦つまりはポルトガルワイン/エントラーダ(前菜)◦ゆかり話/ソッパ(スープ)◦少々経緯をぐだぐだと/メインディッシュはペイシェ(魚)とアローシュ(米)◦ 海の男モラエスとお米とお魚の国日本/デザートとカフェ◦余韻

品川・高輪、酒をめぐる事件簿 幕末江戸の外国人と酒

吉﨑雅規

江戸の「大使館街」/品川の大トラ/江戸の歓楽街/江戸っ子に変装した外国人/酒くさいマドロス/正史からこぼれる滴

慶応三年のパリ万博 氷はいかにしてカクテルに投じられたか

石倉一雄

「なぜ、氷?」/「十四年の空白」が意味すること/中川嘉兵衛と五稜郭/安かった天然氷/人造氷と天然氷/氷と宗教の微妙な関係/「アイス・キング」フレデリック・テュードル/意外な自然の保冷剤─さまざまな創意と工夫の末に/アメリカと氷ビジネス/そして、カクテル

江戸から東京へ下水をたどる 下水道の百三十年

栗田彰

【江戸】川柳が描く下水道/【江戸】水を大切につかっていた/【明治】銀座煉瓦街の下水道/【明治】コレラと神田下水/【明治】東京府とW・K・バルトン/【大正・昭和】近代下水道工事/これからの下水道

銀座煉瓦街と覗きからくり 銀座通りは見世物町

坂井美香

マボロシの見世物装置/銀座異聞─山田風太郎「幻燈煉瓦街」/なぜ浅草ではなく銀座なのか?/からくり儀右衛門/東京銀座煉瓦街/銀座に見世物が入った?─空き家対策/空き家の問題化?─東京市史稿資料からの推測/資料からみえた見世物の様子/見世物が出た背景/昼夜目鏡─夜がたちまち昼になる!/「銀座通りは見世物町」─銀座には似合わない?/ガス灯下の煉瓦街で(おわりに)

水を澄ましめた新宿 淀橋浄水場と歌舞伎町

宮沢聡

新宿は水の都だった─二大上水と弁天池/近代水道と中島鋭治/「都におくる淀橋の池」/浄水場移転問題と新宿新都心/淀橋浄水場の残土/歌舞伎町の誕生

 


房総丘陵の用水路「二五穴」 江戸・東京をつなぐトンネル

島立理子


東北の「別天地」・飯坂温泉 飯坂絵はがきプロジェクト

蒲倉綾子

「飯坂小唄」に誘われ…/「東北屈指の温泉郷」―繁栄と斜陽/タイムスリップ! 大正昭和の飯坂温泉ツアー/飯坂温泉のもうひとつの顔/色街・飯坂のその後

中入 特別寄稿

郵便受に咲く花のやうに モダンガールとその時代の追體驗

淺井カヨ

御挨拶/新しさの詰まつた時代/住まひ探し/最薄の壁/時代をつなぐ古書/時をこえた台所/氷の冷藏庫─「むかし」を買ふ/日本モダンガール協會


第二部 形

幻の東京オリンピック盃

大槻倫子

はじめに/やきものを愛する国・日本/日本の盃/展覧会「酒器の玉手箱」/盃コレクター篠田恒男さん/時代を映し出す宣伝盃/幻の東京オリンピック宣伝盃/おわりに

「工芸ニュース」再読 「資材÷頭脳」の技術力

臼井新太郎


乳房観の変化と粉ミルク

伊賀みどり

はじめに/母乳育児の文化と乳房観(授乳に関する習俗 ─乳付け、貰い乳、乳母─/母乳栄養児が赤ちゃんコンクール入賞/母乳を豊かにする方法)/高度経済成長期のミルク育児の流行と乳房観(病院・診療所出産の急増と粉ミルク/赤ちゃんを大きく育てる/乳房観の変容)/おわりに

「会社員」内田誠のスヰート 生業、余技、そして趣味

広瀬徹

内田誠の「生業」( 広報誌『スヰート』の編集・刊行/映画とのタイアップ/広告宣伝に関する啓蒙・普及活動と業界内活動/同僚・部下の育成)/内田の「余技」(随筆執筆/雑誌『春泥』の発刊・編集/句会運営と作句/追悼書の編集・出版)/内田の「趣味」(浮世絵蒐集/小唄)/「生業」「余技」「趣味」のバランス

本の配達人・品川力さん 本郷のペリカン

板垣誠一郎


織田作之助と品川力の親交 東京遊学、作家デビュー、そして終章「旅への誘い」  

岩佐善哉

品川との出会い/織田の東京遊学と小説家志望への転向/『海風』発行を支えた品川/織田の作家デビューと検閲/ペリカン書房と「木の都」/戦後、人気作家に/旅への誘い

猛火に包まれた帝都、その終焉。

室田元美

三月十日、深夜の地獄絵図/関東大震災の悪夢/次の世代にどう伝えればいいか

東京府のマボロシ──失われた文化、味わい、価値観の再発見
A5判変型・368頁 定価=本体2400円+税
2014年12月刊・発売中
ほろよいブックス編集部/編
宮崎隆義、吉﨑雅規、石倉一雄、栗田彰、坂井美香、宮沢聡、島立理子、蒲倉綾子、淺井カヨ、大槻倫子、臼井新太郎、伊賀みどり、広瀬徹、板垣誠一郎、岩佐善哉、室田元美/著(掲載順)

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投稿者: 社会評論社 サイト

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