| 刊行情報 | 青木孝平/著 経済と法の原理論 ─宇野弘蔵の法律学 社会評論社刊 2019年8月中旬刊

宇野弘蔵の法学に対する問題提起をふまえ、その経済理論との連関を検証して、本邦で初めて法の原理論を体系化する。


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| 特集 | 瀧田 寧・西島 佑/編著 機械翻訳と未来社会 言語の壁はなくなるのか 社会評論社刊 2019年7月12日発売[ミニ対談/目次詳細/あとがき]

「あとがき」のあと ―『機械翻訳と未来社会』編者によるミニ対談

注目作『機械翻訳と未来社会 ─言語の壁はなくなるのか』の発売前に編著者のお二人、瀧田 寧氏と西島 佑氏から本書こぼれ話を送っていただきました。

 

出版のきっかけ


瀧 田  ようやくすべての校正が終わって、原稿がわれわれの手を離れたね。

西 島  そうですね。最後の最後まで直すところがたくさんありました。松田代表や編集の本間さんには本当にお世話になりました。

瀧 田  西島さんは手書きの校正が初めてだと言っていたよね。

西 島  ええ。ぼくが所属している学会や大学の機関誌では、校正をPDFでやり取りしているので、今回は校正の過程でもいろいろと勉強になりました。たしか2校を届けに行ったときだったかと思うのですが、松田代表が見慣れない校正記号を使用していて、驚いた記憶があります。

瀧 田  西島さんは修正指示を文章で書き込んでいたものね。しかもそれをPDFにして持ってきていたので、私はあれが新鮮でした。だけど、文章だと一つ一つ読まなければならないので、時間がかかったね(笑)。

西 島  ところで瀧田先生は「あとがき」に、本当はもっと書きたいことがあったようですね。

瀧 田  そう。だけど、頁数がちょうど240頁というきりのいい数字だったので、あれ以上増やさないことにしたのです。その分を、社会評論社さんのブログで紹介しようかな、と。

西 島  どのようなことだったのでしょうか?

瀧 田  もともとこの本を社会評論社さんから出させていただくにあたっての、きっかけのようなことだね。

西 島  話が長くなりますか?これ、ミニ対談ですけど。

瀧 田  いや、すぐ終わらせます(笑)。実は、2013年に社会評論社さんから刊行した『日本海沿いの町 直江津往還』(以下、『直江津往還』)という本の制作に、私は編集副幹事としてかかわっていました。郷土史研究の成果ではありますが、あえて全国出版したことで、直江津以外の方々からも結構反響があり、私も自分が担当した章に関して、札幌の方から講演を依頼されたりもしました。

西 島  やっぱり長くなりそうじゃないですか!(笑)

瀧 田  わかった、手短にするね(苦笑)。で、そうした感じで、とにかく刊行後も時々、『直江津往還』で取り上げたテーマに関連するイベントや出会いがあり、そのたびに社会評論社さんに伺って、数冊ずつ購入していたのです。そういう時にいつも窓口になってくださったのが、板垣誠一郎さんでした。そのうち板垣さんから、また何か書きませんか?というありがたいお誘いをいただくようになったのです。

当初は『直江津往還』の続きを考えていたのですが、すぐには難しいので、しばらくお待ちいただいていました。そうこうするうちに西島さんの「機械翻訳と未来社会」のワークショップにかかわるようになり、その評判も良かったので、これなら少し工夫すれば本になるのではないか、と考え、板垣さんにご提案したところ、好意的な反応をいただいたのです。そういう経緯で今回の原稿をこちらに持ち込んだので、お声をかけていただいた板垣さんにも深く感謝しています。

西 島  なるほど、『直江津往還』のときからの板垣さんと瀧田先生の関係がきっかけとなり、今回の『機械翻訳と未来社会』への出版につながったのですか。本来だったらむすびつかないものがむすびついたことになりますね。

 

カバーのバベルの塔について


瀧 田  郷土史と機械翻訳って、そう言えば本来だったらむすびつかないと思われるかもね(笑)。ところで校了とほぼ同時に、カバーもできましたね。『直江津往還』の時には、日本海に沈む夕日をイメージしたデザインをお願いしたのですが、今回はカラフルで、未来社会の文字が強調されているのもいいですね。

装丁・右澤康之

西 島  カバーの絵はバベルの塔です。ちなみにワークショップのポスターでもバベルの塔を背景として使用したのですが、書籍のカバーと違うことに瀧田先生は気づいていますか?

瀧 田  もちろん気づいてはいるけど、違いをあらためて教えてもらえる?

西島 バベルの塔は、古典画から現代のCGによるものまでたくさんあります。ワークショップのポスターで使用したのは、CGでつくられた素材でした。

瀧 田 そ うだったの?!

西 島  で、今回の書籍のカバーは、17世紀前後の風景画家ヨース・デ・モンペル二世の作品の1つですね。バベルの塔というと、モンペルより前のブリューゲルの作品が有名ですが、こちらはぼくが所属している日本言語政策学会のホームページ(http://jalp.jp/wp/)の背景にもなっているので、かぶらなくてよかったです(笑)。ブリューゲルの塔と比べると、モンペルの作品では塔がより高い特徴がありますね。

瀧 田  本書では巻頭言から「バベルの塔」の話が出てくるので、カバーのイメージと内容が合って、よかったです。

 

おわりに


西 島  今回、ぼくは本書の読者層として、とくに文系の方々を意識しました。機械翻訳や人工知能というと、どうしても理系の視点から書かれたものが多いのですが、機械翻訳や人工知能はこれからますます身近なものになってくると予想されるので、それらが社会にどのように浸透するのか、という問題は、人間や社会のあり方を考える文系の人間にとっても、大きな課題になると思うのです。

それで、理系の方々だけでなく文系の方々にも、「一緒にこの問題を考えていこうよ」と呼びかけるような意識をもって、執筆や編集に臨みました。だから機械翻訳と社会の関係に関心があるすべての方々に本書を手に取っていただきたいですね。瀧田先生はどうでしょうか?

瀧 田  そうですね。機械翻訳とのつきあい方を、いろいろな現場ですでにあれこれ考えている方はもちろんですが、まだ機械翻訳にあまり触れていない方にも、この本のどこかのページをきっかけにして、まずは機械翻訳そのものに関心を持っていただけると嬉しいですね。


 

瀧田 寧(日本大学商学部准教授、西洋哲学)

西島 佑(上智大学総合グローバル学部特別研究員PD、政治哲学)


 

瀧田 寧・西島 佑/編著

機械翻訳と未来社会
──言語の壁は なくなるのか

Machine Translation and Future Society :
Will We See a World Without Language Barriers in the Future?


四六判並製 240頁 定価:本体2000円+税
ISBN978-4-77845-1744-2 2019年7月中旬発売


 

目次詳細

巻頭言

機械翻訳はバベルの塔を再建するか
/木村護郎クリストフ

「バベル的状況」の再解釈
新たな「バベルの塔」を築かないために

〔座談一〕本書への誘い

瀧田 寧・西島 佑・羽成拓史・瀬上和典

一 本企画の経緯と本書の意義
二 論文執筆者の専門紹介 
三 各自の論文について

コラム 機械翻訳はここまで可能になった
隅田英一郎

一 グローバリゼーションは言葉の壁を現前化した
二 規則による機械翻訳からはじまった
三 翻訳データ活用に 一八〇度方向転換した
四 AIの深層学習で翻訳精度が急上昇した
五 機械翻訳は新たなステージへ立った

序章 機械翻訳をめぐる議論の歴史
西島 佑

はじめに
一 論理主義と第一次AIブーム
二 第二次AIブーム ── 一九七〇年代から八〇年代前半
三 第二次AIブームへの批判
四 人工知能研究者らの問題意識
五 統計・確率主義
六 第三次AIブーム──統計機械翻訳からニューラル機械翻訳へ
七 論理主義と統計・確率主義の違い
八 むすびにかえて ―― 機械翻訳と未来社会を考える上での二つの問いの提起
機械翻訳の歴史年表

第一章 機械翻訳とポライトネス ─機械翻訳に反映させるべきポライトネスとその手法に関する一考察─
羽成拓史

一 はじめに
二 機械翻訳の発展と現状そして今後
三 ポライトネス
四 機械翻訳へのポライトネスの適用
五 おわりに

comment
▼羽成論文へのコメント   生田少子

response
▼生田コメントへの応答  ポライトネスを機械翻訳に反映させるということ――付加的要素を含めた方法論の再検討  羽成拓史

第二章 機械翻訳の限界と人間による翻訳の可能性
瀬上和典

一 はじめに
二 機械翻訳の未来
三 トランスレーション・スタディーズと機械翻訳
四 人間を主体とした翻訳の可能性
五 翻訳という行為そのものの価値
六 おわりに

comment
▼瀬上論文へのコメント  鈴木章能

response
▼鈴木コメントへの応答  機械翻訳の問題点の具体例と機械翻訳を用いることの倫理  瀬上和典

第三章 機械翻訳は言語帝国主義を終わらせるのか? ― そのしくみから考えてみる─
西島 佑

一 はじめに ── 機械翻訳の定義と本章の構成
二 先行研究のなかで機械翻訳はどう位置づけられるのか?
三 機械翻訳のしくみ
四 言語帝国主義の潜在化
五 おわりに

comment
▼西島論文へのコメント  塚原信行

response
▼塚原コメントへの応答
機械翻訳と権力の諸問題についての試論  西島 佑

〔座談二〕機械翻訳が普及した未来社会

瀧田 寧・西島 佑・羽成拓史・瀬上和典

エピローグ コミュニケーションの入口としての機械翻訳
瀧田 寧

一 機械と人間の違い
二 外国旅行の意義
三 翻訳の限界
四 おわりに

あとがき

〔編著者〕

瀧田 寧 (たきた やすし)
日本大学商学部准教授。日本大学大学院文学研究科哲学専攻博士後期課程満期退学。専門:西洋哲学。主な論文:「ロック哲学における「伝承」の問題─モンテーニュの『エセー』と比較して─」(『総合社会科学研究』通巻31 号、総合社会科学会)。「ポパーとモンテーニュ─人間の無知の強調の先にあるもの─」(『批判的合理主義研究』通巻18 号、日本ポパー哲学研究会事務局機関誌編集部)。「ロックにおける思考鍛錬の意義とその限界─誤謬原因としての観念連合を中心に─」(『イギリス理想主義研究年報』第9 号、日本イギリス理想主義学会)。


西島 佑 (にしじま ゆう)
上智大学総合グローバル学部特別研究員PD。上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科国際関係論専攻博士後期課程満期退学。専門:政治哲学。主な論文:「国家語の概念小史:19 世紀半ばから20 世紀前半のドイツ語圏、保科孝一、田中克彦までにおける」(『言語政策』13、日本言語政策学会)。「旧ソ連地域における国家語の系譜:カウツキーからレーニン、ポスト・ソヴェトへの歴史的展開」(『上智ヨーロッパ研究』9、上智大学ヨーロッパ研究所)。「「特異点」と「技術」からみる言語と社会の過去と未来 ──テイヤール・ド・シャルダンの思想をてがかりに」(2015 年度テイヤール・ド・シャルダン奨学金・金賞論文、上智大学理工学部・理工学研究所)。


〔共著者〕

羽成 拓史 (はなり たくし)
明治学院大学講師。明治学院大学大学院文学研究科英文学専攻博士後期課程満期退学。専門:社会言語学。主な論文:「謝罪ストラテジーに関する一考察 ─受け手側からの評価を中心に─」(『International Journal of Pragmatics』第21 号、日本プラグマティックス学会)。「謝罪発話行為とポライトネス─データ収集方法の差異に着目して─」(『経営学紀要』第23 巻 第1・2 合併号、亜細亜大学短期大学部学術研究所)。「謝罪発話行為におけるポライトネス実現に聞き手が果たす役割に関する一考察」(『シルフェ』第52 号、シルフェ英語英米文学会)。


瀬上 和典 (せのうえ かずのり)
東京工業大学講師。明治学院大学大学院文学研究科英文学専攻博士後期課程満期退学。専門:19 世紀アメリカ文学。主な論文・著書:「詩人の夢と神秘主義の問い」(『East-West Studies of American Literature & Essays─あるアメリカ文学者の系譜─』[一粒書房]所収)。「ラルフ・ウォルドー・エマソン」(『晩年にみる英米作家の生き方─モーム、ミラー、アップダイクほか15 人の歩んだ道』[港の人]所収)。「流動する〈自然〉─Nature に見るEmerson の自然観」(『シルフェ』第56 号、シルフェ英語英米文学会)。


〔本企画にご協力をいただいた方々〕(敬称略、掲載順)

・巻頭言
木村 護郎クリストフ (きむら ごろう)
上智大学外国語学部ドイツ語学科教授。

・コラム
隅田 英一郎 (すみた えいいちろう)
国立研究開発法人情報通信研究機構フェロー。

・第一章の論文へのコメント
生田 少子 (いくた しょうこ)
明治学院大学文学部英文学科教授。

・第二章の論文へのコメント
鈴木 章能 (すずき あきよし)
長崎大学大学院多文化社会学研究科・教育学部国際文化講座教授。

・第三章の論文へのコメント
塚原 信行 (つかはら のぶゆき)
京都大学国際高等教育院附属国際学術言語教育センター准教授。


 

[あとがき]より

平成三一(二〇一九)年四月三〇日、まさに平成最後の日に、本書に収録する全原稿を持ち寄り、完成原稿に向けての編集会議を行った。

会議の終了後に撮影した集合写真は、座談二「機械翻訳が普及した未来社会」の最後に掲載した。この会議の席上、座談二で話題になる『ドラえもん』の「ほんやくコンニャク」の説明について、それはみんな知っているから不要なのではないか、という意見が若いメンバーから出た。

四人のうち、知らなかったのは筆者だけであったようだ。確かに『ドラえもん』を子どもの頃、時々テレビで見た記憶はあるのだが、いまではその内容をまったく覚えていない。

世代の違いという問題ではないのかもしれないが、ともかく読者のなかには『ドラえもん』になじみのない方々も当然おられるだろうから、その説明が必要であると主張して受け入れてもらった。「ほんやくコンニャク」は、それを食べるだけで、外国人とのコミュニケーションの際の言葉の壁を簡単に取り払ってくれるもののようである。

これに対し機械翻訳は、今後ますます精度を上げることで、言葉の壁を低くすることはできるだろう。壁が低くなれば、これまで以上に深く広く異なる文化を知る機会が増えることは期待できる。ところで異文化を「知る」ということは、そこに言葉の違いという壁、習慣の違いという壁の存在を感じ続けることでもある。

機械翻訳が普及した未来においては、言葉の壁が取り払われた社会ではなく、言葉や文化の取り払うことができない壁の存在を認め合う社会であってほしいと思う。


本書に収録されている論文三本は、座談一「本書への誘い」でも述べている通り、上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科のジャーナルAGLOS Special Edition 2016 《言語の壁がなくなったら:機械翻訳と未来社会》(二〇一八年刊)に掲載されているものに、加筆修正を施したものである。

本書への転載をお認めくださった上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科の皆さまに深く感謝したい。またそれら三本の論文に対して、本書ではそれぞれ専門の近い先生方にコメントを寄せていただくことにした。ご協力をいただいた生田少子先生、鈴木章能先生、塚原信行先生には、厚く御礼申し上げたい。先生方のご協力をいただいたおかげで、各論文の執筆者はそれぞれ自らの論文を再検討し、その成果を応答に記すことができた。

巻頭言は本企画の発端となったワークショップで司会を務められた木村護郎クリストフ先生に、コラムは同ワークショップでコメンテーターを務められた隅田英一郎先生に、それぞれお願いした。ワークショップ後も続けている本企画にあらためてご協力をいただいた両先生にも、心よりの感謝を申し上げたい。

瀧田 寧


 

| 刊行情報 | 瀧田 寧・西島 佑/編著 機械翻訳と未来社会 ─言語の壁は なくなるのか 社会評論社刊 2019年7月中旬刊

機械翻訳がひらく可能性とそこに潜む問題点をめぐって、文学、言語学、哲学の若手研究者が論究したワークショップの成果。

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| 詳報 | 社会学者の見たマルクス─その生涯と学説 フェルディナント・テンニース/著 片桐幸雄/訳 社会評論社刊 2019年3月刊

1887年に『ゲマインシャフトとゲゼルシャフト』を上梓し、新たな歴史発展理論を提唱したドイツ社会学会の重鎮が1921年に刊行したカール・マルクス論。

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| 詳報 | 佐々木 隆治/著【増補改訂版】マルクスの物象化論 ─資本主義批判としての素材の思想─

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| 詳報 | 田上孝一編著 支配の政治理論

A5判並製270頁 定価=本体2400円+税
ISBN978-4-7845-1566-0 2018年12月刊


編者序文より

本書は2017年2月に同じ社会評論社より刊行した『権利の哲学入門』の続編として企画されたものである。

前著では現代社会を考えるに当たっての鍵概念として権利を選び、新進気鋭の若手研究者を中心とした執筆陣による力作を集めることができた。幸いにも前著は好評をもって迎えられ、執筆に参加した若手研究者にとっても有益な研究業績とすることができた。今回の本ではこの実績を踏まえて、権利と同じように現代社会を考える上で重要な概念になると思われる、支配の問題を取上げる。

前著の序文では、人間にとって必須な存在の内に、人間生活にとって重要であればあるほど、それへのニーズが常に満たされ、その存在自体が意識されないのが望ましいものがあるとして、まさに権利はそのような存在の一つではないかと指摘した。権利が意識されるのは往々にしてそれが損なわれている状況においてであり、権利が満たされている場合に人は権利それ自体を意識しないものだと述べたのである。

今回取上げる支配も、権利同様にこうした関係が成立するのではないかと思われる。多くの人が集い社会を形成する以上は、常に何らかの利害対立が生じざるを得ない。この際、対立が社会自体を解体せしめるまでに先鋭化しないように、利害を調整する必要が生じる。この場合、各個人は何らかの社会規範へと強制されるわけで、このような強制それ自体を支配といってしまえば、人間社会に支配は付き物である。しかし通常はこのような強制一般を支配とは言わない。強制が支配として意識されるのは、本来は適用されるべきではない範囲にまで強制が広がってきた場合である。特に個人生活における自由、とりわけ内面の自由が侵されていると感じたとき、人は強く支配というものを意識するのではないか。支配も権利同様に、過不足なく適用されている場合は、人々はその存在自体を意識しない。権利はその不足が意識され、支配はその過剰が意識されるのである。

実際、支配的な権力を有する為政者は、自らの支配欲を満たす場合は勿論、そのような邪な欲望がなくても、被治者を管理し易くするという官僚主義的なニーズに促されて、支配の領域を常に拡張しようとする傾向を持たざるを得ない。まさにこれこれこそが、現代の日本で起きている現象ではないか。(以下、本書)

田上孝一

《編著者》田上孝一(たがみ こういち)
1967年 東京生まれ
1989年 法政大学文学部哲学科卒業
1991年 立正大学大学院文学研究科哲学専攻修士課程修了
2000年 博士(文学)(立正大学)
現在 立正大学非常勤講師・立正大学人文科学研究所研究員
主要著書 『初期マルクスの疎外論──疎外論超克説批判──』(時潮社、2000年)、『実践の環境倫理学──肉食・タバコ・クルマ社会へのオルタナティヴ──』(時潮社、2006年)、『フシギなくらい見えてくる! 本当にわかる倫理学』(日本実業出版社、2010年)、『マルクス疎外論の諸相』(時潮社、2013年)、『マルクス疎外論の視座』(本の泉社、2015年)、『環境と動物の倫理』(本の泉社、2017年)、『マルクス哲学入門』(社会評論社、2018年)

目次と執筆者紹介


序文


第Ⅰ部  政治支配の思想史


第1章 プラトンの支配論 ──魂への配慮としての政治

隠岐-須賀麻衣

はじめに
1. 何のための「政治」か
2. 魂への配慮
3. 支配の理論
3–1. 哲学と政治的権力の統合:『国家』の場合
3–2. 法による支配:『法律』の場合
3–3. 二つの支配の交差
おわりに
隠岐-須賀麻衣(おき- すが まい)1985年生まれ テュービンゲン大学客員研究員 政治思想史専攻 博士(政治学)
• 主要業績 「プラトン『ポリテイア』における詩と物語」(日本政治学会編『年報 政治学』2014年I 号、木鐸社、2014年)、『古代ギリシャ語語彙集』
(共訳、大阪公立大学共同出版会、2016 年)、"An Invitation from Plato: A Philosophical Journey to Knowledge"(Paths of Knowledge : Interconnection(s) between Knowledge and Journey in the Graeco-Roman World, Edition Topoi近刊)

第2章 マキァヴェッリの支配論 ──その近代性に関する若干の指摘

村田玲

はじめに
1. 僭主政治の教説
2. 教会権力の問題
3. 喜劇の誕生
おわりに
村田 玲(むらた あきら)1978年生まれ 金沢大学客員研究員 政治哲学史専攻 博士(政治学)
• 主要業績 『喜劇の誕生─マキァヴェッリの文芸諸作品と政治哲学』(風行社、2016年)、"Machiavelli’s La Umana Commedia: key thoughts on understanding his major political works", A Journal of Political Philosophy, No.24, Summer, 2018、レオ・シュトラウス『哲学者マキァヴェッリについて』(共訳、勁草書房、2011年)

第3章 スピノザの支配論  ──個人・社会・国家の安定化機能としての宗教

服部美樹

はじめに
1. 最高権力形成──自然的結合と社会契約論
2. 宗教の意義と機能──服従の教えと喜びの感情の増大
3. 国家の基礎にして庶民の社会倫理としての啓示宗教
4. 各政体と教会制度
おわりに
服部美樹(はっとり みき) 政治思想専攻
• 主要業績 「17世紀ネーデルラント共和国と啓蒙──ネーデルラント・カルテジアンとスピノザ」(佐藤正志編『啓蒙と政治』、早稲田大学出版部、2009年、所収)、「スピノザにおける神政国家と民主政の関係──法の可能性と民主政の不可能性」(飯島昇藏・中金聡・太田義器編『「政治哲学」のために』、行路社、2014 年、所収)、「スピノザにおけるコナトゥスと自然権(一)」(2002年5月20日「早稲田政治公報研究」第69号)

第4章 アダム・スミスの支配論  ──支配を必要としない社会のしくみを描く

玉手慎太郎

はじめに
1. 本章の課題
2.『国富論』について
2-1. 分業
2-2. 分業と市場
2-3. 分業と自然調和
2-4. 政府と支配
3.『道徳感情論』について
3-1. 同感
3-2. 同感と自然調和
おわりに
玉手慎太郎(たまて しんたろう) 1986年生まれ 東京大学大学院医学系研究科医療倫理学分野特任研究員 経済学専攻 博士(経済学)
• 主要業績:『権利の哲学入門』(共著、社会評論社、2017年) 、"External Norms and Systematically Observed Norms"(Japanese Economic Review, Volume 66, Issue2, 2015)、「健康の自己責任論に対する2つの反論とその前提」(『医学哲学・医学倫理』36号、2018年)

第5章 J.S. ミルの支配論  ──政府の強制的介入を通じた幸福の最大化

小沢佳史

はじめに
1. ミルの功利主義と危害原理
2. 帝国内の属国の人々に対する支配
2-1. 非文明的属国
2-2. 文明的属国
3. 自国の人々に対する支配 (1) ──歳出面
3-1. 未成年者への教育
3-2. 軍隊による治安の維持
4. 自国の人々に対する支配 (2)──歳入面(見せびらかしの消費と飲酒への政府介入)
おわりに
小沢佳史(おざわ よしふみ)1985 年生まれ 九州産業大学経済学部経済学科講師 経済学史・社会思想史専攻 博士(経済学)
• 主要業績 『権利の哲学入門』(共著、社会評論社、2017 年)、「停止状態に関するJ.S.ミルの展望──アソシエーション論の変遷と理想的な停止状態の実現過程──」(経済理論学会編『季刊・経済理論』第49 巻第4 号、桜井書店、2013 年)、「J.S. ミルの保護貿易政策論──一時的な保護関税をめぐって──」(マルサス学会編『マルサス学会年報』第23 号、雄松堂書店、2014年)

第6章 マルクスの支配論 ──生産力の制御とゲノッセンシャフト

田上孝一

はじめに
1. 常識イデオロギーによる支配
2. 支配の本質
3. 被支配者による支配構造の再生産
4. 支配の原因としての分業
5. 愛を原理とするゲノッセンシャフト
おわりに

第7章 ニーチェの支配論  ──「力への意志」における支配概念の考察

飯田明日美

はじめに
1. 奴隷道徳の発生史
1-1. 二千年前の善悪の基準
1-2. キリスト教道徳という「奴隷道徳(die Sklaven-Moral)」の発生
2. 奴隷道徳批判
2-1. ニヒリズムという病(奴隷道徳の育成した人間)
2-2. 弱者の自己欺瞞
3.「力への意志」と支配
3-1.「力への意志」とは即ち支配を求めること
3-2.「支配」の具体像
おわりに
飯田明日美(いいだ あすみ)お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科博士後期課程 比較社会 文化学専攻 
• 主要業績 「『根源的一者』再考 ──芸術的遊戯としての『根源=一』へ──」(日本ショーペンハウアー協会『ショーペンハウアー研究』別巻3号、2016 年)

第8章 ベルクソンの支配論 ──社会的抵抗の目的と動機

斉藤尚

はじめに
1.『試論』における自由な行為
2. 自由な行為の政治的・経済的意義
2-1. 内的自由の維持としての自由な行為
2-2. 社会抵抗としての自由な行為
①政治的な抵抗の可能性
②経済的な抵抗の可能性
③新たな疑問点
3. ベルクソンと実践
4. 社会的抵抗の道徳性
おわりに
斉藤 尚(さいとう なお)東北学院大学経済学部共生社会経済学科准教授 公共哲学専攻 博士(政治学)
• 主要業績 『社会的合意と時間:「アローの定理」の哲学的含意』(木鐸社、2017年)、“The Transformation of Kenneth Arrow’s Attitude toward War”( 共著,War in the History of Economic Thought: Economists and the question of war (Routledge Studies in the History of Economics), Routledge, 2018)

第9章 フランクフルト学派の支配論 ──〈支配の理性〉と〈支配批判の理性〉

楠秀樹

はじめに
1.「フランクフルト学派」とは何か?
2.〈 支配の理性〉
2-1.『第三帝国前夜のドイツの労働者とホワイトカラー─その社会心理学的研究─』(1929) ──プロレタリアートの統合と知識人の孤独
2-2.『権威と家族』(1936)──小なる権威から大なる権威へ
2-3.『権威主義的パーソナリティ』(1950) と『啓蒙の弁証法』(1947) ── 悲観的支配論
3.〈支配批判の理性〉
3-1.『公共性の構造転換』(1962) ──第一世代から第二世代において継続する悲観的支配論
3-2.『イデオロギーとしての技術と科学』(1968) ──システム支配に対する生活世界の視点
おわりに
楠 秀樹(くすのき ひでき) 1970 年生まれ 東洋大学・東京理科大学非常勤講師 社会学理論・社会学史・社会思想史専攻 博士( 社会学)
• 主要業績 『ホルクハイマーの社会研究と初期ドイツ社会学』(社会評論社、2008年)、『<社会のセキュリティ> を生きる─「安全」「安心」と「幸福」との関係』(共編著、学文社、2017年)、『ケアの始まる場所─哲学・倫理学・社会学・教育学からの11章』(共著、ナカニシヤ出版、2015年)

第Ⅱ部  政治支配と現代


第10章 リベラリズムと支配  ──ロールズのリベラリズムと非支配としての自由

宮本雅也

はじめに
1. 積極的自由と消極的自由の二分法
2. 多元主義とロールズの正当化を重視するリベラリズム
3. 正当化を重視するリベラリズムと非支配としての自由
おわりに
宮本雅也(みやもと まさや) 1989年生まれ 早稲田大学教育・総合科学学術院助手 早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程 現代政治哲学専攻
• 主要業績 『ロールズを読む』(共著、ナカニシヤ出版、2018 年)、「分配的正義における功績概念の位置づけ─ロールズにおける功績の限定戦略の擁護」(『政治思想研究』第15 号、風行社、2015 年)

第11章 コミュニタリアニズムと支配  ──公・私・共の三領域とその緊張関係の擁護

奥田恒

はじめに
1. 応答するコミュニタリアニズムとその背景
1-1. アカデミック・コミュニタリアニズム
1-2. 応答するコミュニタリアニズム
2. 二つの支配への抵抗
2-1. 個人主義批判
2-2. 保守主義との異同
2-3. 自律と秩序のバランス
3. コミュニタリアニズムと政府・町内会関係
3-1. 町内会の基本的特徴
3-2. 緊張関係の維持と「伝統による支配」
おわりに
奥田 恒(おくだ ひさし)1985 年生まれ 京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程 神戸学院大学非常勤講師 政治学・公共政策学専攻
• 主要業績 「『ゲームの継続』のための公共政策」(『立命館言語文化研究』28巻1号、2016年)、「『心理的な事実』にもとづく世界の貧困削減」(『人間・環境学』第25巻、2016年)、「ナッジ政策による公共問題解決のアプローチ」(『政策情報学会誌』第11巻第1号、2017年)

第12章 功利主義と支配  ──リバタリアン・パターナリズムの擁護論から

木山幸輔

はじめに
1. 功利主義とは何か
2. リバタリアン・パターナリズムとは何か
3. 功利主義とリバタリアン・パターナリズム
3-1 リバタリアン・パターナリズムを擁護する功利主義?
3-2. J・S・ミルとリバタリアン・パターナリズム 
3-3. P・シンガーとリバタリアン・パターナリズム
4. リバタリアン・パターナリズムの功利主義的擁護論への批判:功利主義と支配
4-1. リバタリアン・パターナリズムとそれを用いる援助構想への支配に関連する異論
(a) 統治の目標における支配:目指される福利についての共約不可能性?
(b) 統治者と被治者の関係における支配:統治者の能力と被治者の無能?
(c) 統治行為の支配化:独創性の妨げとなる心的態度?
4-2. 支配に関して再照射される功利主義とそのありうる応答
おわりに
木山幸輔(きやま こうすけ) 1989 年生まれ 日本学術振興会特別研究員PD 政治理論・開発学専攻
• 主要業績 『ロールズを読む』( 共著、ナカニシヤ出版、2018 年)、「J・ラズの人権構想の検討: 人権の哲学の対立において」『法哲学年報』2016 号( 有斐閣、2017年)、「人権の哲学の対立において自然本性的構想を擁護する:チャールズ・ベイツによる批判への応答」『法と哲学』4号( 信山社、2018年)

第13章 グローバリゼーションと支配 ──植民地主義の悪性を題材として

福原正人

はじめに
1. 植民地主義それ自体の悪
2. 実際の同意
3. 適格な受容可能性
4. グローバルな支配関係
おわりに
福原正人(ふくはら まさと) 1984年生まれ 高崎経済大学経済学部他非常勤講師 政治哲学専攻
• 主要業績 「領有権の正当化理論──国家は何をもって領土支配を確立するのか」『法と哲学』第三号(信山社、2017年)、「人の移動と国境管理ーー参入、離脱、受容可能性」松元雅和、井上彰編『人口問題の正義論』(世界思想社、2018年)、「民主主義の境界画定──正当性と正統性」『年報政治』2018 年度第II号(掲載予定)

第14章 バイオテクノロジーと支配 ──フーコーの司牧権力の観点から

三羽恵梨子

はじめに
1. バイオテクノロジーと医療をめぐる支配関係
2. インフォームド・コンセントの考え方の発展
3. フーコーの司牧権力論
4. インフォームド・コンセントはいかにして専門家支配への抵抗でありえたか
5. ヘルスプロモーション
おわりに
三羽恵梨子(みわ えりこ)1986年生まれ 東京大学大学院医学系研究科医療倫理学分野博士後期課程 上尾中央看護専門学校非常勤講師
• 主要業績 「出力型Brain-Computer Interface に関する倫理的論点とその考察」(『生命倫理』29号、日本生命倫理学会、2018年)

第15章 支配の経済学  ──自由な経済学における二重の支配

笠井高人

はじめに
1. 自由な経済学
2. 経済学による支配
3. 支配された経済学
おわりに
笠井高人(かさい たかと)1986年生まれ 鹿児島大学教育学部特任講師 経済学史専攻 博士(経済学)
• 主要業績 「カール・ポランニーの功利主義批判とベンサムへの評価:二重の運動と社会主義」(『経済学論叢』第68巻第3号,同志社大学経済学部,2016年)、"The Cause of War and Role of People by Karl Polanyi: A Change in Realm of International Relations after The Great Transformation"( Journal of Economic and Social Thought, Volume 4, Issue 1, 2017)、「カール・ポランニーの『複合社会』と公共の射程」(『社会科学研究年報』第47号,龍谷大学社会科学研究所,2017年)

第16章 支配の社会学 ──ウェーバーの支配論

宮崎智絵

はじめに
1. ウェーバーにおける支配の概念
2. 支配の三類型
2-1 合法的支配(legale Herrschaft)
2-2 伝統的支配(traditionale Herrschaft)
2-3 カリスマ的支配(charismatische Herrschaft)
3. 支配の正当性
4. ウェーバー支配論の意義
おわりに
宮崎智絵(みやざき ちえ)立正大学・日本大学・二松学舎大学非常勤講師 社会学専攻
• 主要業績 「カースト社会の< 不浄>・< ケガレ> と浄化儀礼」( 沼義昭博士古稀記念論文集編集委員会編『宗教と社会生活の諸相』隆文社、1998年、所収)、「カースト制における権力と教育の作用」(『二松学舎大学国際政経論集』第17号、二松学舎大学、2011年)、「差別と平等から見るカースト制の形成と構造」(『二松学舎大学論集』第57号、二松学舎大学、2014年)

第17章 支配の神学 ──無支配を目指す未来学

福嶋揚

はじめに
1. 神学とは何か
2. 聖書における「支配」
3.「主」「全能」「力」
4. 社会倫理的に見た「支配」
4-1. 国家と資本への対抗運動としてのバルト神学
4-2. 柄谷行人の交換様式論
4-3. 交換様式論とキリスト教
おわりに─未来学としての神学
福嶋 揚(ふくしま よう)1968年生まれ 青山学院大学・東京神学大学・日本聖書神学校兼任講師 神学・倫理学専攻 神学博士
• 主要業績 Aus dem Tode das Leben. Eine Untersuchung zu Karl Barths Todes- und Lebensverständnis (Theologischer Verlag Zürich 2009)、『カール・バルト 破局のなかの希望』(ぷねうま舎、2015年)、『カール・バルト 未来学としての神学』(日本基督教団出版局、2018年)

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| 詳報 | 鎌倉孝夫/編著 新自由主義の展開と破綻 『資本論』による分析と実践課題

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| 詳報 |  石塚正英/著 マルクスの「フェティシズム・ノート」を読む ─偉大なる、聖なる人間の発見

晩年のマルクスが構想した人類史の再構築を読み解くために──

カール・マルクスは晩年、モーガン『古代社会』やラボック『文明の起源』など古代史・人類学研究書の読書を通じて、人類史を総合的に再構築する道に分け入る。人類の社会構造と精神構造に関して、氏族組織、フェティシズムなどをキーワードにして探求する。本書の第I部において、マルクスによるド= ブロス『フェティシュ諸神の崇拝』摘要を検証する。 第II部において、老マルクスによるフェティシズム概念のド=ブロス的再建過程を読む。

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