先立つ人から教わる「死」の現実。民俗の実例をたぐりよせ〝死の学習〟へ誘う ──板橋春夫/著『生死(いきしに)』

板橋春夫/著『生死(いきしに)』の初刷は2010年暮れのことでした。幸いにも本書は医療人を育てる大学での教材としての需要が生まれ、今春新たに第3刷を刊行できました。今回は目次詳細と、著者による各部解題をご案内します。

生死(いきしに)
看取りと臨終の民俗/ゆらぐ伝統的生命観

目 次

第1部 いのちの人生儀礼


現代医学が高度に発達しても、人間の生命の不思議にはかなわない。その考えは手塚治虫『ブラック・ジャック』に一貫する思想である。第1章「生死のこと」は、用語の定義を紹介した。第2章「徒然草にみる生死」は、吉田兼好『徒然草』をテキストに大人の人生哲学書として読み込んだ成果である。『徒然草』は高等学校の古典で習ったが、私の先生は文法が好きで、教科書は数段しか終わらなかった。三十代の公民館勤務時代に古典講座で『徒然草』を取り上げる機会があり、講師の魅力的な指導も手伝って全段を読む機会を得た。そして今回、生死の問題を考えるにあたって関連する段落を読み直した結果、私自身の「いのち」に関する民俗学的視点が深まるという貴重な体験をした。第3章「いのち観と人生儀礼」は、論文調の書き方をした。そこでは循環的生命観から直線的生命観(連鎖的生命観とでもいうべきか)へ移行しつつあること、それに伴って家から個人へという生死観モデルの組み替えが必要であることを主張している。


第1章 生死のこと

第2章『徒然草』にみる生死

  • 問題の所在
  • 生老病死と自然観
  • 人生の見方
  • 老いと長命
  • まとめと課題

第3章 いのち観と人生儀礼

  • 問題の所在
  • 「いのち」と「生命」の捉え方
  • 生まれ変わりと先祖観
  • 循環的生命観と個人の生命過程
  • まとめと課題

 

 

第2部 身体と霊魂の民俗


私は人が生まれてから死ぬまでの習俗や儀礼に関する研究を志しているが、可能な限り霊魂観によらない視点からの研究を模索してきた。しかし気が付くと霊魂観という大きな手のひらの上にいることが多い。まるで孫悟空がお釈迦様の手のひらの上で動き回っているような感じである。第1章「名前と人生」は、現在の読みにくい名前の存在に注意しながら、現代的な課題も視野に入れた命名の民俗を取り上げた。第2章「霊魂と箸の伝承」で取り上げた箸やチャブダイなどは生活に密着したテーマであり、霊魂を感じさせる生活文化の事象である。第3章「夜の民俗」は、私自身は会心の作と位置づけ愛着のある論考である。夜の民俗も実は霊魂観に支配されていたのである。第4章「長寿民俗にみる老人観」は、沖縄のトーカチ祝いとカジマヤー祝いを紹介しながら、民俗的な老いの一面を分析した。長寿は必ずしも目出度いものではなく、排除の思考が垣間見られることを指摘しているのがユニークな視点であろう。


第1章 名前と人生

  • 問題の所在
  • 名付けの諸相
  • 悪霊から逃れる悪名
  • 名前を明かさない習俗
  • まとめと課題

 

第2章 霊魂と箸の伝承

  • 問題の所在
  • くしゃみとあくび
  • 『眠る男』とタマヨビ
  • 箸に宿る霊魂と私有観
  • 箱膳からチャブダイへ
  • まとめと課題

 

第3章 夜の民俗

  • 問題の所在
  • 夜の境目
  • 夜の時間
  • 夜の明かり
  • まとめと課題

 

第4章 長寿民俗にみる老人観

  • 問題の所在
  • 「諸国風俗問状」にみる八十八の祝い
  • 喜寿・金寿・米寿
  • 長寿祝いに用いる物品
  • 沖縄のトーカチ祝い・カジマヤー祝い
  • 米寿の戒名授与
  • 高齢社会を象徴する長寿銭
  • まとめと課題

 

第3部 看取りと死の民俗


第1章「病気をめぐる民俗」では、病気観を考えながら「病気見舞の本義」と「縁起を担ぐ退院日」に注目した。私たちは太陽暦を用いながら、一方で旧暦と呼ぶ古い暦も享受している。そのために仏滅大安などの六曜は江戸時代には取るに足らないものであったが、旧暦から新暦に変わったことで六曜にゲーム性が生まれた。それが今も私たちの生活を支配し、手帳やカレンダーで大安や友引などをチェックする人は少なくない。私たちは近代的生活のかたわらで何気ない俗信に振りまわされて生きている。それが医療にも大きな影響を与えており、民俗学が医療分野で活躍すべき点が多いことを再認識した。第2章「看取りと臨終」は、民俗学分野では類例の少ないレポートであったが、現在は時代の要請もあり、介護と老人の問題に関心を持つ研究者も増えた。第3章「死の儀礼」は、話題性のある散骨や墓じまいなどにも言及しているが、第4章「伝統的葬送習俗」の詳細な聞き書きデータと併せて読むことをお薦めしたい。


 

第1章 病気をめぐる民俗

  • 問題の所在
  • 民俗的病気観
  • 病気見舞いの本義
  • 縁起を担ぐ手術日と退院日
  • 急病人搬送の民俗
  • 疱瘡と麻疹にみる病気観
  • まとめと課題

 

第2章 看取りと臨終 石川県白山麓の山村の事例から

  • 問題の所在
  • 自宅から離れる死
  • 人生儀礼の中の看取りと臨終
  • 看取り・臨終の諸相
  • 死の身体的表象と看取り作法
  • 死のサインの中なおり現象
  • まとめと課題

 

第3章 死の儀礼 その変容と現代的課題

  • 問題の所在
  • 非日常性を強調する儀礼
  • 葬式の変化
  • 戒名の文化
  • ケガレと清め
  • 散骨の流行と墓石の必要性
  • 葬式の画一化
  • まとめと課題

 

第4章 伝統的葬送習俗 群馬県みどり市大間々町の事例

  • 地域の概観
  • 長寿祝い
  • 死の前後
  • 葬式の準備と手伝い
  • 死者の扱いと儀礼
  • 死後の供養と年忌供養
  • 葬法その他

コラム

  • ヒノエウマ俗信撲滅へ孤軍奮闘
  • 死者に吹きかける酒
  • ジャンボンまわりは時計まわり

事項索引


生死 看取りと臨終の民俗/ゆらぐ伝統的生命観 生死(いきしに)
看取りと臨終の民俗/ゆらぐ伝統的生命観板橋春夫/著
叢書・いのちの民俗学3
定価=本体1,900円+税
四六判並製 272頁
ISBN978-4-7845-1701-5

著者紹介

板橋春夫(いたばし・はるお) 民俗学者。博士(文学・筑波大学)。1954年 群馬県に生まれる。1976年 國學院大學法学部卒業。新潟県立歴史博物館参事を経て、現在日本工業大学工学部生活環境デザイン学科教授。著書【単著】……『誕生と死の民俗学』(吉川弘文館、二〇〇七年)、『叢書いのちの民俗学1 出産』(社会評論社、2009年。のち増補改訂版 2012年)『叢書いのちの民俗学2 長寿』(社会評論社、2009年)、『平成くらし歳時記』(岩田書院、2004年)など。【編著】……『日本人の一生』(八千代出版、2014年)、『年中行事の民俗学(八千代出版、2017年)。


メモ:

本書は、板橋春夫氏の研究業績から通過儀礼に関する論考を自選した企画「叢書・いのちの民俗学」第3巻として刊行しました。

カバーイラストは、いま活躍されている画家の一人、亀澤裕也氏の作品です。作品を小社の学術書に橋渡しをして下さったのは、ブックデザイナーの臼井新太郎氏によります。


◆直接郵送もいたします。お気軽にお問い合わせ下さい。


社会評論社メールフォーム http://wp.me/P85uC6-eX

投稿者: 社会評論社・目録準備室

(株)社会評論社 メールアドレス book●shahyo.com (●は@に変更して下さい)