ペリカン書房と品川力さんと、本郷の町。(第6回)─その思い出を聞く。

東大前の本郷通りにそってお店の並ぶ途中にある小道「落第横丁」をごぞんじですか? その通りで営まれていた古書店と伝説の「本豪」(ほんごう)、品川力さんの足跡をたどります。連載第6回は「私は本郷のペリカン書房の品川力であります。」。

第6回

私は本郷のペリカン書房の品川力であります。

 

わ、た、く、し、は

── はい?

ほ、ん、ご、う、の

── 本郷? あぁ、

ペ、リ、カ、ン、

── ペリカン、

し、よ、ぼ、う、の

── ペリカン書房。

し、な、が、わ、つ、と、む

── はいはい!

で、あ、り、ま、す。

──ドウモドウモ。品川さん、わざわざお電話いただきまして光栄です。いま、ちょうど純さんから、生前の品川さんのお話を、客間でうかがっていた所なんです。初めまして、私はイタガキと申します。よくいる顔ですけどお店にうかがったことは一度もなかったんです。はいその、品川さんが自転車に乗っている大きな写真のポスターを本郷通りで見つけたのがきっかけで‥‥。

品川さんは少年の頃から吃音症で悩まれていたというのは、御本などで拝読していたんですけれど、息子さんの目線からどう見えていたのかをお訊きしたら、はいそうなんです、今のように、電話をかける時は一音ずつ、ゆっくりと、発音されていたというお話で。

私はせっかちの悪い癖、早口でそこに来て滑舌が悪いので、周りが何度も聞き返してきて段々とじれて注意されたり、自分でも相手に伝わっていないのはよく判っていて、名前がイタガキなのにイナガキとか、タガキとか、中にはまったくそれは違うだろうヨというのまであったりで‥‥。

吃音症はまた別の症状のようですね。品川さんはその悩みやご苦労をユーモアまじえて書いていらっしゃるから、つい勝手な想像をしてしまって、お歳をめしてからは大分よくなっていたんだと思ってみたのですが──。

お電話をかけて、毎回ちゃんと一音ずつゆっくりとお伝えになるから、

わ、た、く、し、は、ほ、ん、ご‥‥

この辺りで「品川さんだね?」とか何とか相手が判ってしまうので、逆にギャフンと品川さんが苦笑する姿を、純さんはよく憶えておいでですよ。

あのぅ実は、私の勤め先の社長さんがもともといた出版社が、品川さんのお店と似た名前でよく間違われていたんだとか‥‥。同じ本郷の町でペリカンさんを名乗る本屋が二つもあれば‥‥はい? あぁ、そうですそうです、向こうは平仮名のぺりかんさんですね。

ところで品川さん。今年なんですが‥‥はい、品川さんが天に召されたのは2006年ですから10年は‥‥、えぇと2017年『写真で綴る「文の京」 歴史と文化のまち』という写真集が刊行されまして、──さすが、よくお気づきで、そうです文京区の区政70周年の記念として出されたものです。ここの126ページ、ご覧下さい品川さんですよ。「古書ペリカン書房と品川力氏」と題して載っています。さすが!

つづく

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文責・板垣誠一郎


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〈2017年3月配信!〉
ペリカン書房と品川力さんと、本郷の町。
── その思い出を聞く。

第1回「本の配達人が住んだ町
第2回「本の配達人の弟と妹と
第3回「横丁へやってきたペリカン
第4回「もう一人の妹
第5回「物静かなサービスマン
第6回「私は本郷のペリカン書房の品川力であります。
第7回「お店の風景
第8回「貸本と夜店の古本屋
第9回「日本近代文学館への献本
第10回「本郷のペリカン


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投稿者: 社会評論社・目録準備室

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