ペリカン書房と品川力さんと、本郷の町。(第2回)─その思い出を聞く。

東大前の本郷通りにそってお店の並ぶ途中にある小道「落第横丁」をごぞんじですか? その通りで営まれていた古書店と伝説の「本豪」(ほんごう)、品川力さんの足跡をたどります。連載第2回は「本の配達人の弟と妹と」。

第2回

本の配達人の弟と妹と

 

看板をかかげたままにしている品川宅で、遺族の品川純氏が迎えて下さり、ペリカン書房の中に入ることができました。

品川力さんをご存じの方ならば、かつて書店であった空間の変化を受けとめ、亡き人を思い、記憶に残る店内を心に浮かべるにちがいありません。当時を知らない私には、寂しさを感じることはかえって身勝手というもの。

案内されたのは奥の一段上がった部屋で、そこは長年にわたり品川家の憩いの場らしく調度品が置かれています。目にとまるシルバーに輝くオブジェと、額に納められた絵のそれぞれユニークな形状と線画に、本とは違う雰囲気を感じました。

この訪問のきっかけとなった企画展のことですが、品川力さんの生涯と功績をまとめた『第34回企画展 本の配達人 品川力とその弟妹(きょうだい)』は2013年10月5日から翌月24日まで、新潟県柏崎市にある柏崎ふるさと人物館を会場にして開かれました。

実は、これと同じ時期に同じ市内にある柏崎市立博物館でも品川力さんの弟にあたり造形作家として活躍した品川工(しながわ・たくみ)さんの展覧会『平成25年度秋季特別展 光と影の造形詩人 品川工』が行われています。

いわば兄弟展という市のユニークな取り組みに関心が向くとともに、品川力さんのという方の魅力は、古本屋という枠だけではくくりきれない何かを予感させます。

品川家の応接間に話を戻して、入るなり客人の目に飛び込むオブジェや絵の数々というのが、品川工さんの作品であることを教わると、あれひょっとして‥‥と持参した品川力さんの著作『古書巡礼』のカバーにあしらわれている絵もまたそうであることに気がつきました。兄弟展以前から、兄・力さんと弟・工さんとの表現のつながりは続いているようです。

そしてもう一人。企画展のサブタイトル「品川力とその弟妹(きょうだい)」が示すとおり、本の配達人(兄・品川力)には、その造形詩人(弟・品川工)とともにキーパーソンとなる妹、品川約百(しながわ・よぶ)さんがいます。

品川約百さんは近代文学で有名な詩人・佐藤春夫に師事し、筆名を品川陽子といいました。企画展では約百さんの残した作品にも光が当てられました。甥っ子であり現在ペリカン書房跡に住まいし、父・力さんの語り部役をこなさす品川純氏はそれをとても誇りに思っていらっしゃる様子。

「聖家族」ともいわれた品川兄弟。つい最近のことでは宮崎駿が描いた『風立ちぬ』マンガ版(『風立ちぬ 宮崎駿の妄想カムバック』)にも、兄と妹をモティーフに描かれているシーンを紹介して下さいました。

品川陽子の作品から一篇を引きましょう。


『思出によする』   品川陽子

 

風のなかの

匂ひのやうに

なつかしいもの

 

風のなかの

匂ひのやうに

とらへがたなく

 

あゝ風と来て

風とゆく

この思ひ出はなに


【写真】品川力さん(中央)、品川工さん(右)、品川約百さん(左)の3人が写る一枚は、品川力さんのアルバムに残されていた。(提供・品川純)

つづく

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文責・板垣誠一郎


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投稿者: 社会評論社・目録準備室

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