ペリカン書房と品川力さんと、本郷の町。(第1回)「本の配達人が住んだ町」

東大前の本郷通りにそってお店の並ぶ途中にある小道「落第横丁」をごぞんじですか? その通りで営まれていた古書店と伝説の「本豪」(ほんごう)、品川力さんの足跡をたどります。連載第1回は「本の配達人が住んだ町」。

第1回

本の配達人が住んだ町

 

『第34回企画展 本の配達人 品川力とその弟妹』。

その催しは何年前かに終わっているというのに、告知のポスターが今なお貼られているのは、知らない人にとっては不思議なことでしょう。

ポスターには同じ人物の二枚の写真が使われています。

まず、ウエスタンハットをかぶり開襟シャツにスラックスで自転車をこぐ姿。どちらかといえばゆっくりとペダルをこいでいそうな印象。後ろの荷台に腰までぴったりつく大きい箱が載せてあり、それが重たそうにも見えます。

それともう一枚はこちらに向かい足を組み、おそらくカメラマンに「笑って」とでも言われたのをどう思ってかはにかむ表情。それがかえって美形な表情を引き立たせ、ボリュームある白髪が、取り囲む本の山と調和しています。

その人物は品川力(しながわ つとむ)さんといいます。

東京大学を本郷通りで挟んだ通り沿いには今も数軒の古書店がありまして、探すと品川力さんが写るポスターが見つかります。

店先のガラス戸に今もポスターを貼る方は、催しは過ぎた今でも、品川力さんという方が赤門前で長く営む古書店や本の文化を語るのにとてもふさわしいことを、通る人、ポスターを見つける人に伝えたいのではないかと思うのは勝手な考えでしょうか‥‥。

惜しまれるのは、品川力さんはすでに天寿をまっとうされ直接お話をうかがえません。でも幸いにも多くのことばを随想などに残していますし、ましてやポスターが告知していたように、品川力さんの生涯を伝える企画展が催されたほどですから、その業績には一般の私たちに多くの発見があることでしょう。

いわゆる函に入ったイカメシイ感じ、ホニャララの研究やらラララの思想とか、きっと通りの向こうの大学では必要とされるんだろうな、自分には宝の持ち腐れ‥‥なんて冷めた視線で歩く東大前の古書店で、例の企画展のポスターを見つけたときのことをよく覚えています。

物静かそうな本の配達人の姿を撮った写真がこの辺りの町並みにあっているなとひとり合点、ではさてこの品川力さんとは誰だろう、そもそも本の配達人って何のことだろうかそういう商売があったのかなんて思い巡らすも、なぜか一番適当で近道な古書店主だとは考え及ばず、企画展の内容を、主催者へ問い合わせ。

連絡先は新潟県の柏崎。そこは品川力さんの生まれ故郷なんですが、向こうとしては、東京からの問い合わせがあってよく聞けば私の勤める事務所から遺族の住まいは近いので、直接問い合わせてみて下さいとの仲介で、ひょんなことから品川力さんの生前の住まいまで出向くことに。

それが何とポスターの貼られた古書店からほど近い、どういういわれか落第横丁なんて名付けられた小道の一角、その場所はありました。看板には品川力さんが営んでいた古書店の名前、ペリカン書房──。

 (つづく

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文責・板垣誠一郎


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〈2017年3月配信!〉
ペリカン書房と品川力さんと、本郷の町。
── その思い出を聞く。

第1回「本の配達人が住んだ町
第2回「本の配達人の弟と妹と
第3回「横丁へやってきたペリカン
第4回「もう一人の妹
第5回「物静かなサービスマン
第6回「私は本郷のペリカン書房の品川力であります。
第7回「お店の風景
第8回「貸本と夜店の古本屋
第9回「日本近代文学館への献本
第10回「本郷のペリカン


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投稿者: 社会評論社・目録準備室

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