ファッショナブルな仮面の祝祭 ─『ヴェネツィアの仮面カーニヴァル 海に浮く都の光と陰』(勝又洋子・著)発売中です

勝又洋子著『ヴェネツィアの仮面カーニヴァル 海に浮く都の光と陰』が発売になりました。ナポレオンにより禁止された後、200年を経て再開されたヴェネツィア仮面カーニヴァル。幻想的な中世都市を舞台にした仮面劇さながらの光景といいます。その歴史を掘り下げた類書の少ない研究作品。もちろん現地で撮影した写真を収録しています。ぜひお買い求めになって下さい。以下、概要と目次をご案内いたします。


その「演劇性」は、どこから来るのか?

本書「あとがき」抜粋


執筆動機
ヴェネツィアのカーニヴァルに出会ったとき、その演劇性に新鮮な驚きを覚えた。その歴史を紐解いてみると、文献も少なく、起源もよくわかっていない。わからないからこそ興味がわき、分かる部分をつなぎ合わせて、その演劇性が何処から来るのか、掘り下げてみようと思った。

ヴェネツィアのカーニヴァルについて研究が少ないのは、ひとつにはカーニヴァルが200年間中断されたことが原因となっているし、他方ではファッショナブルな仮装のカーニヴァルといったイメージがとても強く、そのイメージに止まっているからだろう。しかしひとたびそのルーツを辿ってみると、古代ギリシア・ローマとのつながりや、ヨーロッパ史との関連、さらにはかつてのヴェネツィア共和国の歴史的な出来事とのつながりが見えてきた。

そして最も興味深いことに、ヴェネツィアでは仮面がある種日常化し、仮面をつけることが礼儀とされ、〈もう一つの顔〉となって社会に居場所を得たことだ。ヴェネツィアにおいては素顔と仮面、いいかえれば裏と表、光と陰が逆転したのだ。

変貌の道具
古代ギリシア仮面演劇で用いられた変貌の道具ペルソナは、人の視覚的印象を変えるので、仮面を意味し同時に外的人格をも意味した。現代ではペルソナをむしろ外的人格の意味で使うことが多い。自我を確立するためにはペルソナの確立する必要があると思われるが、ヴェネツィアの仮面バウタのように、匿名化の装置である一つの仮面が共通のペルソナとなって機能した社会では、個々人のペルソナの確立はどのようになされるのだろうか。

すでにふれたとおり、ヴェネツィアにおいて仮面は社会と交流するための一つの顔となった。匿名化のツールである仮面を通して社会とつながった共和国時代のヴェネツィアは、現代の高度に発達したIT社会と共通した精神構造を持っていたように思う。

素顔と仮面の現在
現代では、媒体としてみれば、前近代的な仮面といった装置を直接つけることはないが、ミクシィMixiなどのSNS(Social Networking Service)を用いて人と交流し、インターネット上に作った別人格アヴァタAvatarやハンドルネームを通して社会と関わっている。佐原真さんは、現代人は直接仮面をつけなくとも毎日TPOに応じてさまざまにプチ変身している、と述べている。さらに野村万之丞(五世)さんは、仮面ほど正直なものはなく、人の顔ほど嘘つきなものはない、といったようなことを述べている。

多様なPC機器を用いて、インターネット上に形成したペルソナを通して自己の存在を表す現代のIT化社会においては、ヴァーチャル空間とリアル空間が交錯して、さまざまに変貌を繰り返し、素顔と仮面が容易に入れ替わっているように思う。

日本のコスプレとヴェネツィア仮面
また日本発信のコスプレcosplay は英語に当用されて、世界に広まりコスプレ・イヴェントが開催されるようになった。日本の漫画やアニメーションを通して展開したコスプレは、漫画やアニメーションのキャラクターに変身することを目的としている。

現代のコスプレ文化にはヴェネツィアの仮面文化とのある種の共通性がうかがえる。こうした視点で見ると、仮面が〈もう一つの顔〉となったヴェネツィア社会は、古代の収穫感謝の祭りからでたとはいえ、むしろ現代社会により親しくつながっているように思える。

勝又洋子
(東京電機大学教授)


目次


まえがき

序 章 ファッショナブルな仮面の祝祭

海に浮く都
交易の舞台
仮面の祝祭
劇場型都市空間と仮面

第1章 仮面とカーニヴァルの起源

カーニヴァルの起源
カーニヴァルの意味
謝肉祭の波及

仮面と仮装そして変身
仮面の由来
仮面の意味
仮面と変身願望

第2章 仮装と祝祭の原風景

仮装の伝播
ディオニューソスの祭り
カーニヴァルと仮面
仮面と演劇
カーニヴァルの原型
仮装と変身
身体の拡張としての舞踏空間
古代への思い

第3章 古典世界との出会い ─十字軍遠征の派生現象─

古代ギリシア・ローマの再発見
十字軍遠征の派生現象
ギルドとコムーネの成立

古代ギリシア・ローマとの出会い
古典の捉え返し
ルネサンスの始まりと終焉

第4章 祝祭と見世物 ─聖餐儀礼・舞踏・仮面行列─

古代ローマの祭り

役割の交換

見世物としての聖餐儀礼
象徴としてのパンと動物
見世物としての儀礼

アクロバット的な見世物
トルコ人の飛行
ヘラクレスの力
ムーア人の舞踏

第5章 ヴェネツィアの仮面カーニヴァル ─物語空間の演出と仮面の役割─

物語空間の演出
仮構と現実
予期せぬ邂逅
物語を紡ぐ空間

ヴェネツィアの仮面とカーニヴァル
仮面行列

仮面の役割
海上都市と仮面
禁止と例外
バウタ─ もう一つの顔
モレッタ─ 女性の仮面
ペストの医者─ 社会を写す鏡
喜劇の仮面
マスケラ・リトゥラット

終 章 海に浮く都の光と陰


ヴェネツィアの仮面カーニヴァル 海に浮く都の光と陰ヴェネツィアの仮面カーニヴァル
海に浮く都の光と陰

勝又洋子/著

四六判ソフトカバー 223頁(カラー口絵8頁)
ISBN978-4-7845-1730-5

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投稿者: 社会評論社・目録準備室

【社会評論社】●時事問題に取り組む活動記録、評論、学術書、ルポルタージュほか多岐に渡る図書を発行。市民の立場から世界を見る面白さがつまった本作りを心がけています。メール book@shahyo.com